大阪市音楽団「三つのジャポニスム」

大阪市音楽団は1923年誕生以来、日本を代表する吹奏楽団の一つである。
ここ数年は存続が危ぶまれることもあり、定期演奏会が2011年〜2012年の間の開催を見合わせられたりと受難続きであったろうと思う。
このCDは2012年11月に定期演奏会が再開されたときのライブ録音盤である。

日本人作曲家の作品で固められた演目からは、なみなみならぬ思いを感じる。
西村朗の「秘儀Ⅰ」が収録されているのはうれしい。小編成だがサウンドが薄い印象はなく、非常に緊張感を伴う。
バンド維新での音源もよかったが、市音はまとまりのある好演を聴かせてくれる。

和田薫の「吹奏楽のための俗謡」も非常に良い演奏。
和田薫はアニメ犬夜叉の音楽からもわかるように、とても日本的で耳に馴染みやすいメロディを書く。
日本らしい素朴なメロディは市音の得意とするところで、歌心のある俗謡が聴ける。
例えば大栗の「大阪俗謡による幻想曲」のような、日本の土着的な音楽は東京の楽団よりも大阪の楽団のほうが数倍ハマる、気がする。

真島俊夫の「三つのジャポニスム」は名曲だ。
日本の音楽の要素を使って、西洋の音楽として再構築をした楽曲(フランス成分多め)だ。
私も高校生の時に演奏したことがあるが、日本音楽の独特のマのようなものであったり、リズムであったりをキッチリ楽譜に起こしている。
オーケストレーションも見事で、現代日本吹奏楽のいいところが存分に堪能できる。
サクソフォン奏者として気になるのが2楽章「雪の川」のソプラノサクソフォン
叙情的な旋律であるのに、通常音域より上の音域(フラジオと呼ばれる)が要求され、このフレーズを音楽的に聴かせるのはとても、とてもむずかしいのだ。
しかし、ここで聴けるソロは絶品である。いやらしくもキツくもなく、流れるようなソロが堪能出来る。さすがに3回目のフラジオは苦しそうだが…。

日本の現代音楽を語る上で欠かせない三善晃さんの作品も収録(クロス・バイ・マーチ)。
人々が行き交うかのような楽曲だが、よく整理された演奏でこの曲のことがより好きになった。

比較的新しい山下康介の「ブルー・ファンタジア」。
華やかな曲の中で、「おおらか」「平穏」「力強さ」といったキーワードによるこの曲はよいアクセントとなっている。
吹奏楽は音が直線的な管楽器が大半で構成される編成であるので、こういった穏やかな部分を含む曲は想像以上に難易度が高い。
曲名にあるように「青」とりわけ青空を強く連想させるこの楽曲は、夏に聴くのには調度良いさわやかさだ。

メインプログラム最後は三枝成彰の「機動戦士Zガンダム」を長生淳による交響組曲で。
長生さんの編曲はもう流石としか言いようがない。
吹奏楽ならではのかっこよさ、勇壮さを存分に引き出したアレンジと演奏。これはZガンダム観たくなるよ。

アンコールはこれも和田薫の「吹奏楽のための土俗的舞曲」で〆。

全体的に会場のあたたかい空気が伝わってくるようで、とてもよい作品に仕上がっていると思う。
市音のいっそうの活躍を期待します。