東京佼成ウインドオーケストラ「陽炎の樹」

東京佼成ウインドオーケストラとその正指揮者である大井剛史による組み合わせでの2枚目のアルバム。
2014年〜2016年の定期演奏会の中から、国内発表された吹奏楽オリジナル作品で構成されています。

音楽的内容が濃く、難易度も高い楽曲が並んでおり、聴き応えは抜群です。
丁寧にスコアを表現していく大井さんの指揮も素晴らしいですし、東京佼成ウインドオーケストラも気合の入った演奏で応えています。

どの楽曲も聴いていておもしろく、また色彩感豊かで飽きがこないのですが、特に印象的だったのは「科戸の鵲巣」です。
この楽曲は中橋愛生さんによって2004年に書かれ、吹奏楽コンクールをはじめ大流行し、様々な団体によって演奏されてきました。
しかし、これほどの凄まじい演奏は今までも、そしてひょっとしたらこれからも出てこないのではないでしょうか。
この演奏は実際に会場でも聴き、目が覚めるような鮮烈な印象を受けたものですが、録音物として細部まではっきり聞き取れる状態で聴いてもさらに凄まじく鮮烈です。

ウインドオーケストラのためのマインドスケープ」も人気楽曲。
これはカットされて演奏されることも多く、今までの印象としてはややモノトーンというものでしたが、この演奏を聴いて完全に曲の見え方が変わりました。
様々にうつろいゆくサウンドと色彩は、まさに心象風景と言って良いもので、あらためて楽曲の力とその要求の高さに驚かされました。

パガニーニ・ロスト・イン・ウインド」はもともとサクソフォン二重奏とピアノのために書かれた楽曲。
吹奏楽版でもサクソフォンは重要な役割を担っていますが、ここでのサクソフォン…田中靖人さんの働きは本当に素晴らしいです。
楽曲が求めることを表現しきるということはこういうことかと思わされます。田中さんはソリスティックな面と合奏体としての面のバランスがよく、とても上品に感じます。

「I Love the 207」は酒井格さんらしく可愛らしい曲で、アルバムの中で息抜きのようなポジション。
音響的に面白い冒頭の「吹奏楽のためのナグスヘッドの追憶」と合わせて、アルバムの構成を面白くしています。

真島俊夫さんの「レント・ラメントーソ」は感動的。
真島さんは職人というイメージが強く、ポップスからシリアスな楽曲まで、物凄いクオリティで表現する方でした。
それゆえ、楽曲の中で様々な展開を持ち、静と動の使い分け…そういった作品が多かったように思います。
この楽曲は鎮魂歌ということもあり、しっとりとした曲調です。吹奏楽を知り尽くした真島さんならではの、あたたかなレクイエムです。

「秘儀Ⅲ」は吹奏楽コンクールの課題曲。課題曲という制約の中で濃い音楽世界が構築されており、西村朗さんの音楽に取り組んで見るのに最適な楽曲です。
ここでの演奏は参考演奏とは一線を画す、音楽としての凄みを感じさせるもの。これを課題曲として中高生の時に学べた方々は幸せですね。

最後はタイトル曲でもある「陽炎の樹」!
委嘱作品であり新作です。中橋愛生さんのオーケストレーションが冴え渡っており、聴くたびに新たな発見を与えてくれるような曲です。
中橋さんの作品は会場で聴くと魅力が跳ね上がるので、実演を聴いてみたいと強く思わされました。

と、収録曲を一言ずつ触れてみましたが、非常に濃いアルバムです。
吹奏楽に何らかの関わりがある方は聴いたほうがよいと断言できます。

TKWOと大井さんのコンビはとてもよい化学反応を起こしていると思うので、今後も楽しみです。