森下唯「アルカン ピアノコレクション3 《風のように》」

森下さんのアルカンアルバムが今年も発売されました。
今までの「交響曲」「協奏曲」と合わせ、今回の5曲で「すべての短調による12の練習曲」は完結となります。

 

アルカン ピアノ・コレクション3《風のように》

アルカン ピアノ・コレクション3《風のように》

 


まずは「すべての短調による12の練習曲」の第1曲~第3曲。
「風のように」は難易度と指定テンポが相まって、なかなかタイトル通りの表現をするのが困難な楽曲という印象でしたが、森下さんの演奏は早く軽く、なめらかでまさに「風」をイメージさせられました。
「モロッシアのリズムで」は舞曲らしい3拍子。テンポをキープしつつ適度に揺らすという塩梅がとても心地よく、自然です。
「悪魔的スケルツォ」はその名の通り。力強いパッセージはもちろんのことですが、後半での弱音による早いパッセージの連続も聴きどころです。森下さんの演奏は弱音でも神経がいきとどいており、繊細かつ力強い印象を受けます。

 

「悲愴な様式による3つの曲」はアルカン初期の作品ですが、中でも「風」は比較的有名。連なる連符による風の表現と、長い音符で奏されるメロディーの対比が美しい楽曲です。この曲は私も大好きな曲。生演奏を聴いたときにも感じたのですが、森下さんは強弱の描き分けによる声部の立たせ方が絶妙で、聴こえてほしいパートがしっかり聴こえるんですよね。楽曲本来の魅力を伝えたいという気持ちが表れているかのようです。


そして「すべての短調による12の練習曲」の第11曲~第12曲。
「序曲」は14分に及ぶ曲で、オーケストラのような豪華な響きが印象的。演奏も各パートのキャラクターがよく描き分けられていて、楽しく聴くことができました。
最後を飾るのは「イソップの饗宴」。最初に提示される主題が様々に変奏されていく曲で、中には演奏不可能なのではと思えるような難易度の箇所もあるのですが、ここで聴くことができるのは「技巧」ではなく「音楽」であることに嬉しい驚きを感じました。
演奏者の都合などではなく、「どう演奏されるのが最も適切か?」を突き詰めた演奏と思います。そして、それを表現できるテクニック。感動しました。

 

タイトル付きの曲が多いこともあり、もしかしたら3作品の中で今作が一番とっつきやすいかもしれません。アルカン入門に最適の一枚です。ショパンやリストが好きだけどアルカンは知らない…という方はこのアルバムから入ってみては如何でしょうか。