筋肉少女帯「2020筋少1stライブ 20201018」

■セットリスト

01.孤島の鬼

02.暴いておやりよドルバッキー

03.日本印度化計画

04.枕投げ営業

05.モコモコボンボン

06.君よ!俺で変われ!

07.ムツオさん

08.ゾンビリバー

09.山と渓谷

10.猫のおなかはバラでいっぱい

11.サイコキラーズ・ラブ

12.イワンのばか

13.カーネーション・リインカネーション

14.ボーン・イン・うぐいす谷

15.ディオネア・フューチャー

 16.喝采よ!喝采よ!

17.サンフランシスコ

 

配信フェスには参加していたもののワンマンとしては今年初となる筋肉少女帯のライブは観客あり、配信ありのスタイルでの開催となった。

 

何より驚かされたのはいきなりの「孤島の鬼」。初期筋肉少女帯アンダーグラウンドな魅力が詰まったヘヴィな楽曲だ。「ドルバッキー」が終わるとMCタイム。観客の発声などを制限してのライブであることなどに触れ、自分では「あわあわ」しているという大槻だが喋りのキレは全くそのような印象とは真逆で絶好調。どのような状況においても自分たちのフィールドで面白おかしくネタにするというワザを堪能できた。

 

「モコモコボンボン」なども定番のひとつではあるが歌に入る際の内田の煽りもいつになく嬉しそうだったのが印象的。やはりメンバー全員ライブを楽しんでいるというのがよく伝わってきた。この日の配信のサウンドは本城のギターが大きめにミックスされていたのもポイントで、特にゾンビリバーなどではいままで隠れがちだった細かいフレーズを細部まで聴き取ることができ非常によかった。カッティングのキレ、センスともに職人技でシビれた。アルバムでもこれくらい分離よくミックスしてもよいのでは…などと。

 

あまりライブでは聴かない「山と渓谷」「猫のおなかはバラでいっぱい」といった楽曲も演奏され、よいアクセントになっていた。猫〜は大槻のnoteでもこれから演奏していきたい風の触れ方をしていた曲なので、今後のアコースティック枠に入ってくるのかもしれない。ちなみに大槻はこの自粛期間以降の期間を使って過去の作品群からいくつかのアルバムの全曲解説音声を行っている。過去の作品と腰を据えて向き合ったことで今後の作品にも影響が及ぼされるのでは…とリスナーとして楽しみだ。

 

最後は「サンフランシスコ」で締め。やはりこの楽曲を聴くと筋肉少女帯を聴いているという実感が湧く。この日の演奏はいつもに増してテンションが高く、ギターとピアノのソロバトルも最高のテイクだった。筋肉少女帯は来月にもライブがあるのでそちらも配信があれば観ようと思う。

 

clammbon「『2020』 20201002」

クラムボンの配信ライブを観た。

 

■セットリスト

01.タイムライン

02.サラウンド

03.はなれ ばなれ

04.ウイスキーが、お好きでしょ

05.ミラーボール

06.恋わずらい

07.君は僕のもの

08.便箋歌

09.Re-雨

10.ララバイ サラバイ

11.Long Song

12.yet

13.KANADE Dance

14.波よせて

15.シカゴ

16.Lush Life!

17.夜見人知らず

18.Bass,Bass,Bass

19.Slight Slight

20.あかり from HERE

 

クラムボンの今年の初ワンマンとなるライブ。モメントシリーズの中でも印象的な「タイムライン」で噛みしめるように幕開け、定番の「サラウンド」で一気に空気感をもっていくあたりはさすが。ウイスキーではブレイクに入るタイミングを間違えひとこまも。MCも演奏もライブの喜びにあふれており、楽曲のスタイルによらず全体的に多幸感にあふれたステージだった。

 

配信ライブならではの取り組みということで、のちのMCでも触れていたが「恋わずらい」「君は僕のもの」「便箋歌」といった近いテンポ感の曲を続けざまに披露してみたり、「雨」〜「ララバイ」〜「Long song」といった即興的で長尺の曲を続けてみたりという工夫の凝らされたセットリストだった。特に後者の長尺パートは物凄い集中力で、このバンドのアンサンブル力をあらためて思い知らされた。

 

アンコールでは自粛期間中にリリースされた新曲「夜見人知らず」が披露され、続く「Bass,Bass,Bass」では全員がステージを降りてパーティーを始めるパフォーマンス。シリアスな本編からシームレスにこうしたおちゃらけた遊びに入っても違和感がないのはこのバンドのキャラクターの強みだ。最後の「あかり from HERE」まで暖かさにあふれたよいライブだった。クラムボンのライブは映像ソフトや配信でしか見たことがないが、次は現地で見てみたいと強く思わされた。

 

 

波多野裕文「継承されるありふれたトラの水浴び」

01.継承されるありふれたトラの水浴び

02.あえなく継承されたありふれたトラの水浴び(outro)

03.やがては統合されるありふれたトラの水浴び(outrotro)

 

代官山 晴れたら空に豆まいてクラウドファンディングのリターンとしてリリースされたPeople In The Box波多野のソロ曲。イラストレーター三好愛とのコラボレーション作品で、イラストカードと楽曲がセットになっていた。三好はこれまでもPITBの物販で「箱」のイラストを担当しており、あたたかみのあるイラストが印象的だった。

 

当初は「継承されるありふれたトラの水浴び」のみがリターン対象の予定だったが、楽曲にインスパイアされてイラストが描かれ、イラストにインスパイアされて楽曲が追加され…という相乗効果により結果として3トラックが完成、リリースされることになった。

 

「継承されるありふれたトラの水浴び」は今年頭のライブでも披露されたことがある楽曲のようだ。優しい音色のキーボードと歌声に乗せてややきびしめの歌詞が紡がれてゆく。途中で入ってくるピアノ、ストリングスやかすかに鳴るコーラスが加わり静かな印象を保ちながらクライマックスに向かってゆく流れは包み込まれるようで心地よい。

 

「あえなく継承されたありふれたトラの水浴び(outro)」はWether Report期の楽曲にやや近く、より生らしい楽器の音がパズルのように配置される。繰り返されるギターのフレーズの上で響くトランペットやコーラスが印象的だ。後半突然始まるビートが存在感を引き立たせる。

 

「やがては統合されるありふれたトラの水浴び(outrotro)」はスキャットで繰り返されるメロディの裏でピアノなどの楽曲が鳴り響いたかと思うと一旦のリセット。ピアノフレーズが核となり新しいボーカルフレーズが始まる。ここでも後半にビートが導入される。前半と後半のボーカルメロディが同時に鳴り響き統合を象徴して楽曲を閉じる。

 

3曲を通じて明確に継承されるテーマメロディがあるわけではないようだ(あえていうなら、outroおよびoutrotroに使用されているアルペジオ音型はやや共通点が感じられる)が、サウンドの方向性は通底しており、あわせて一つの作品となっている。

DGM「Tragic Separation」

トラジック・セパレーション

トラジック・セパレーション

  • アーティスト:DGM
  • 発売日: 2020/10/07
  • メディア: CD
 

  

01.Flesh And Blood

02.Surrender

03.Fate

04.Hope

05.Tragic Separation

06.Stranded

07.Land Of Sorrow

08.Silence

09.Turn Back Time

10.Curtain

 

イタリアのプログレメタルバンドDGMの新作が出た。結成当初にメンバーの頭文字をとって名付けられたバンドだが現在は全員入れ替わっている。メンバーチェンジのたびに音楽性を洗練させ、今ではDream TheaterSymphony Xを混ぜ合わせたようなハイクオリティな作品を産み出すバンドになっている。

 

当然メンバーの演奏技量も非常に高いのだが、特にギターのシモーネ・ムラローニは近年のイタリアンメタル界になくてはならない存在で、ファビオ・リオーネとアレッサンドロ・コンティのコラボでの楽曲提供やギター演奏、Secret sphereでのエンジニアとしての参加など枚挙に暇がない。しかし彼のギターの真骨頂はやはりDGMだ

 

今回も音楽性は前作までを踏襲しており、ハードなリフとメジャーなサビを持つ明るいサウンドの楽曲が並ぶ。サビでのフックが更に強化されている印象を受け、今までのアルバムだともう一声欲しくなっていたような箇所がかゆいところに手が届くメロディになっていて痛快だ。マーク・バジルの歌も素晴らしく、イタリアンメタルらしい高音の延びと骨太なサウンドが聴ける。

 

明確なコンセプトがあるわけではないと思われるが、全体を通して精神的な旅のようなものを感じさせるようなつくりになっており、最後の「カーテン」が映画のエンドロールのように響いてくる壮大な世界観だ。このスケールのサウンドをぜひ生でも聴いてみたいものだ。

 

 

 

 

東京佼成ウインドオーケストラ「吹奏楽燦選/シンフォニア・ノビリッシマ」

 

01.シンフォニア・ノビリッシマ

02.呪文と踊り

03.イギリス民謡組曲 第1曲 行進曲《日曜日には17歳》

04.イギリス民謡組曲 第2曲 間奏曲《私の素敵な人》

05.イギリス民謡組曲 第3曲 行進曲《サマセット地方の民謡》

06.行進曲《海の歌》

07.吹奏楽のための《クロス・バイ マーチ》

08.シンフォニック・バンドのためのパッサカリア

09.セント・アンソニー・ヴァリエーションズ(原典版)

10.復興

11.ブラジル

12.宝島

 

年に正指揮者に就任してから常にクオリティの高い演奏を提供し続けてくれている大井剛史。これまでのリリースはライブ録音のものが多かったが今回はセッション録音でのフルアルバムとなる。

 

シンフォニア・ノビリッシマ」はジェイガーの代表作で祝祭的な雰囲気に包まれた名曲。きらびやかさを出しつつも落ち着きのある上品な演奏。「呪文と踊り」はチャンスの代表作のひとつで、以前のアルバムでも「朝鮮民謡の主題による変奏曲」が取り上げられていた。美しいソロとキレのあるリズミカルな部分の対比が印象的。

「イギリス民謡組曲」および「海の歌」はヴォーン=ウィリアムズの古典名曲。比較的平易な技術で演奏可能だが充実したメロディとオーケストレーションで非常に演奏効果が高い。3楽章ラストの解釈は演奏者によって様々なバリエーションがあるが、大井の解釈は楽譜に忠実に素材の良さを引き出しており好印象。各パートの素晴らしいソロもあいまってこの楽曲の決定版のひとつになったと思う。

 

三善晃の「クロス・バイ・マーチ」はうってかわって現代的で複雑だが、持ち前のきめ細やかなサウンドで楽曲の面白さがクリアーに伝わってくる。兼田敏の「パッサカリア」やヒルの「セントアンソニー」もかつて吹奏楽コンクールで流行した楽曲たち。ただしここでは派手さに頼るのでなく楽曲本来の姿が味わえるような調理をされている。「復興」は東日本大震災の後に大人気となった(作曲されたのはそれ以前)楽曲で、プロ団体での腰を据えた録音が出たのは嬉しい。不穏な冒頭から光明がさすクライマックスまでのストーリーの描きかたは圧巻だ。アンコール枠としてはニューサウンズ・イン・ブラスの2曲も収録。ここでも上品なサウンドを聴かせてくれた。

 

いずれもよく知られた楽曲であり、東京佼成としての録音が2回目以上のものもあって目新しさという点ではやや地味なアルバムであるが、そのぶんこのオーケストラ自体の個性をトータルで味わうことができる作品になっていると思うし、時代とともにレパートリーを拡張だけでなく更新もしていく姿勢は好感が持てる。

 

まだまだこのオーケストラで聴いてみたい曲は沢山あるので、このシリーズの今後にはさらに期待したい。

  

大槻ケンヂとめぐろ川たんていじむしょ/大槻ケンヂと絶望少女達「愛がゆえゆえ/あれから」

 

01.愛がゆえゆえ

02.あれから(絶望少女達2020)

03.愛がゆえゆえ Instrumental

04.あれから(絶望少女達2020) Instrumental

 

10年間、アニメ「さよなら絶望先生」シリーズの主題歌を大槻ケンヂが担当した。私が大槻ケンヂをしっかり聴いたのはそのときが初めてだったのだが、すっかり世界観にハマってしまって今では毎年筋肉少女帯のライブに通うようになった。

 

今作は「さよなら絶望先生」と同じ作者、久米田康治の最新作「かくしごと」のアニメ化に際しての楽曲だ。絶望先生シリーズの時と同じく、作曲は特撮やCOTDNARASAKIが担当、演奏も特撮メンバーをベースにした編成になっている。

 

「愛がゆえゆえ」は最近の特撮の流れに沿ったような優しい曲で、いつくしむような大槻の声が暖かい。特撮サウンドの特徴であるハードなギターサウンドとピアノの組み合わせも絶好調。「あれから」は絶望少女達シリーズの続編。当時の主題歌群の世界を引き継いで現在をテーマに歌われる。メビウス荒野などを思わせるゴリゴリのギターとカオスな声優と大槻の掛け合いパートを経て「ぶれぶれ」「あいつら」などのキーワードをちりばめながらエモーショナルなサビに。10年経って紡がれるメッセージがここまで優しくポジティブなものになるとは、「絶望は閃光」との歌詞を思い出させられる。あれだけ屈折した感情を紡いできたからこそ「あれからよりこれから」がここまで強く響くのだ。かくしごとの曲を作るにあたって「もう一度、絶望少女達を」というのは大槻ケンヂからの提案だったという。思い出を更新してくれてただひたすらに感謝だ。

 


大槻ケンヂとめぐろ川たんていじむしょ/大槻ケンヂと絶望少女達 『愛がゆえゆえ/あれから(絶望少女達2020)』 試聴動画

 

Anaal Nathrakh「Endarkenment」

  

01.Endarkenment

02.Thus, Always, to Tyrants

03.The Age of Starlight Ends

04.Libidinous (A Pig with Cocks in Its Eyes)

05.Beyond Words

06.Feeding the Death Machine

07.Create Art, Though the World May Perish

08.Singularity

09.Punish Them

10.Requiem

 

毎回素晴らしいクオリティの狂気を届けてくれるAnaal Nathrakhの新作がリリースされた。イギリスの2人組バンドで、ドラムなどは音源では打ち込み、ライブではサポートメンバーを入れている。ジェットコースターのように激しく展開する楽曲が特徴で、ブラックメタルグラインドコア的なエクストリームメタル由来の暴力性とメロディアスな抒情性(高らかに歌い上げられるクリーンヴォーカル)の対比が心地よい。来日も3回ほどしており、私も1回目、3回目の公演は観に行った。

 

今作だが、まず冒頭の「Endarkenment」からキラーチューンだ。キメのきいたリフももちろんだがキャッチーに展開するサビの破壊力が凄まじい、今までも歌メロは覚えやすいものが多かったが今作はワンランク上という印象だ。「The Age of Starlight Ends」でも抒情的なサビメロがあり、さらに続いてのギターソロが素晴らしい。ここでもメロディが大切にされておりクライマックスへの盛り上がりを演出している。

 

今作では歌詞(の一部)と楽曲に対するコメントが付記されているのも特徴のひとつだ(今までは歌詞は記載されないのが通例だった)。英語が母国語でない私にとっては「記載されていないエクストリームメタルの歌詞を耳だけで聴きとる」のはまったく不可能だったのでこれはうれしい。「Libidinous (A Pig with Cocks in Its Eyes)」は裏ジャケット(流通ジャケをはがすと衝撃的な本来のジャケットが出現する)の絵を表したタイトルになっており、本作の核のひとつと言えるだろう。現代社会への痛烈な批判になっている。

 

「Beyond Words」ではVoヴィトリオールの表現力に圧倒される。低音から高音まで幅広い音域でのシャウトを使い分けており発声もブラックメタル的であったりと多彩だ。続く「Feeding the Death Machine」ではクリーンでのサビが非常に印象的。メロディだけでなく裏のギターも耳に残るメロディを奏でており、サウンドはエクストリームだがさながらオーケストラを聴いているような感覚にさせてくれる。今作は音もとても良く、混沌になりがちなサウンドがしっかり整理されていると感じる。各楽器がどういったメロディを奏でているかがよくわかるので楽曲の理解もしやすい。

 

ヴェルディのレクイエムを大胆に引用した「Requiem」でアルバムは幕を閉じる。ここまで現代社会に対しての批判を浴びせてきた作品の最後がレクイエムというのも一貫していて素晴らしい。過去最高に「多くのリスナーに届きやすいサウンド」で固めてきたうえでのこのメッセージ性は非常に効果的だ。ちなみに、日本版ボーナストラックには1曲目の「Total Necro Version」なるものが収録されており、ノイズまみれでめちゃくちゃうるさい仕上がりになっていてカッコいい。これは日本版がおすすめだ。

 

今作も素晴らしいアルバムだった。落ち着いたらぜひまた来日してほしいものだ。