King Crimson「MUSIC IS OUR FRIEND @ 東京国際フォーラム 2021/11/27」

King Crimsonの来日ツアー初日を観てきました。

 

 メンバーから「最後の来日になるだろう」という発言も多く、決定事項という言い方ではないものの可能性は高いという雰囲気でしたので、観に行けてよかったです。

 

■セットリスト
01.The Hell Hounds Of Krim
02.Pictures Of A City
03.The Court Of The Crimson King
04.Red
05.One More Red Nightmare
06.Tony Cadenza
07.Neurotica
08.Indiscipline
09.Islands

10.Drumzilla
11.Larks' Tongues In Aspic Part One
12.Eptitaph
13.Radical Action II
14.Level Five
15.Starless

16.21st Century Schizoid Man

 

 セットリストはまるでベスト盤のような構成で、それこそ「クリムゾンキングの宮殿」から、トリプルドラムならではのDrumzillaまで盛りだくさん。

 

 最後になるかもしれないということでしたので、ロバート・フリップを目に焼き付けよう…という気持ちで行ったのですが、実際に見てみるとトリプルドラムを含めたバンド全体としてのエネルギーが凄くて、そちらに圧倒されました。ただ、席が2階の後方で目を細めながら見たというのと、直近の仕事の疲れが蓄積していたというのもあり睡魔に襲われることもあったのが個人的な反省点でした…。

 

 2018年の来日も見に行ったのですが、それからポーキュパイン・ツリーを聴くようになったこともありギャヴィン・ハリソンを含むトリプルドラムをより面白く感じられました。「The Hell Hounds Of Krim」からもう凄くて、ビートをパワフルに主導しつつトリッキーな拍子を入れ込むギャヴィン、飛び道具的な音響を入れてくるパット、ベーシックなビートでどっしりしたジェレミーと個性豊かなメンバーなのに、キメになると完全にシンクロして超強力なビートを実現していました。

 

 初日だからか音響バランスや演奏前後のアナウンスもちょっとミスらしきものが目立ったのですが、「The Court Of The Crimson King」のコーダでのフリップの即興不協和音がとても大きいバランスになっていて「崩壊」感みたいなものが醸し出されていて逆に面白かったりしました。「Red」「One More Red Nightmare」もカッコよかった。このへんのヒリヒリした時期の楽曲は緊張感としてはやはり当時の音源のほうがあると思いますし、最近の録音を聴いても大人な演奏かな、とは思っていたのですが、実際に現地で聴くと音圧とリズム隊のグルーヴによって全くぬるい感じはないというか、メンバー同士の鍔迫り合いのようなものをリアルで感じられました。これはやはり現地なり映像付きでみないとわかりづらいところですね。

 

 前半の白眉は「Indiscipline」。決まったパルスの上で即興的な技が入り乱れる難曲ですが、特にドラム3人のバトルが凄かったです。パットが短いフレーズを演奏するとすぐにギャヴィン、続いてジェレミーが山彦のように同じフレーズを演奏して大きなフレーズを構築していくというもので、この日一番の緊張感があったと思います。なにより各メンバーのドラムのサウンドが本当にすばらしくて、歌舞伎の見栄のようというか、バシッ!と言い切るような歯切れのよいフレーズの連続はとにかく痺れました。

 

 後半も素晴らしく、個人的にこれは見ておきたいと思っていた「Larks' Tongues In Aspic Part One」でのフリップのギター独奏のフレーズを聴くことができて感無量でした。アレンジが前回来日時とは異なり、メル・コリンズのソロはなかったですね。

 

 「Level Five」「Starless」で本編終了。前者は記憶より滑らかなサウンドでちょっと驚きました。スターレスでのフリップのギターメロディはやはり最高で、幽玄というか空間を感じさせられるような時間でした。後半のテンポアップのパートではそれまで青系統だったステージの照明が赤くなり、ライブの終わりを強く感じさせながら一気呵成に駆け抜けていきました。ここまで特に記載していませんでしたが他のメンバーもいつもどおりの安定感で、ジャッコのVoはもはや何の違和感もなくクリムゾンのサウンドとして溶け込んでいますし、トニーのチャップマンさばき、メルのサクソフォンも期待以上の素敵さでした。

 

 最後は「21st Century Schizoid Man」。前回来日時はやらない日もあったと思うので、生で見ることができて本当によかったです。メンバーが楽しそうに(遠かったので表情はわからないのですが…)演奏するさまを観られてこちらも楽しかったです。中盤のギャヴィンのソロは今回もものすごくて、バスの連打を絡めた最後の畳みかけはもう引くほどヤバかったですね…。キメでのお約束の掛け声も客席からけっこう飛んでいて、以前のようなライブ空間が戻ってきつつあるのかな…と(複雑ながらも)感じました。

 

 全編通じて、やはりクリムゾンは今でも実験的精神を持ち続けているバンドだと感じました。やっている曲こそ60年代の曲であったりはしますが、その演奏方法を毎回アップデートさせてその時その時でできるさらによいサウンドを追求していることがよくわかりましたし、実際にトリプルドラムをはじめとしたキレキレの演奏でそれが実現できているとも思えました。まだまだ限界は感じないので、諸々の都合が許すなら、最後なんて言わずにまた来日してほしい…と強く思います。いいコンサートでした。

東京佼成ウインドオーケストラ「第156回定期演奏会」

TKWOの2021年内の定期もこれで最後。いろいろあったとはいえ今年も1年早かったですね。

 

01.ローマの謝肉祭(H.ベルリオーズ/仲田 守 編)
02.クラリネットのための軍隊協奏曲(C.ベールマン/大橋晃一 編)
03.クラリネットのための第1狂詩曲(C.ドビュッシー/稲垣卓三 編)
04.交響曲 第3番 オルガン付き(C.サン・サーンス/大橋晃一 編)

 

 本日は2010~2012年にTKWOの首席指揮者をつとめたポール・メイエ氏による演奏。スケジュール発表のときは来日できるか心配しましたが、問題なく東京、大阪ともに演奏会は成功したようで本当によかったです。クラリネット奏者でもあるメイエの技巧を活かした「吹き振り」を含む充実したプログラムでした。

 

 まずはベルリオーズ「ローマの謝肉祭」。曲想にあったエッジのある派手なサウンドでした。メイエのクラリネット演奏にも通じるところのある、はっきりとした語り口で強弱やアクセントの付け方もわかりやすかったです。これは序曲のような表情がコロコロと変わるスタイルの楽曲に非常に適しているように思われ、飽きの来ない演奏だなと感じました。最後の和音の絢爛さも見事でした。

 

 指揮棒をクラリネットに持ち替え、吹き振りパート。ベールマンの「軍隊協奏曲」です。これは事前に調べても音源が全く見つからなかった曲。オーソドックスな古典的クラリネット協奏曲スタイルかなとは思いましたが、軍隊とつくように行進曲的なテンポと楽想が特徴的。クラリネットの名手が書いただけあり技工的で、更にそれを高速タンギングで演奏していくメイエは圧倒的でした。絢爛なベルリオーズのあとにこうしたまとまった響きに移行する楽団のサウンドの切り替えもすばらしかったです。

 

 吹き振りはソロの時はブレスなどのアクションでテンポを見せ、吹いていないところは軽く指揮をふってリードしていくという感じ。ヴィルトゥオーゾ系の独奏者らしい、テンポをぐいぐい前に引っ張っていく攻めたソロ演奏と全体をまとめる指揮が同居(というよりスイッチング?)しており、興味深かったです。

 

 「狂詩曲」はドビュッシーらしい、揺蕩うようなサウンドが印象的ですが、独奏を伴うこともあり比較的メロディがしっかり見える楽曲です。メイエはフランスらしく歌いすぎないお洒落さを常に漂わせており、過度に感情移入することがないような演奏に感じました。それでいて曲の集結部に向かっての躍動感はプレイヤーならではの感覚で熱が入っており、とても面白く聴くことができました。

 

 メインのサン・サーンス「オルガン付き」。まず特筆すべきは弱奏部の表現でしょう。今回のための編曲となっており、弦楽器の細かい同音連打を逃げずそのまま同音連打で表現。これはやろうと思っても演奏者全員の実力が高くないとなかなかできるものではなく、冒頭から圧倒されました。この細かい動きが表に裏にとあらわれてはヴェールのようにサウンドを覆う様は面白い響きでした。バランスコントロールも素晴らしく、弱奏でのパイプオルガンと管のコントラストもしっかり聴き取れました。

 

 そしてなんと言っても2部後半。パイプオルガンの主和音に導かれ奏される金管楽器のファンファーレの輝かしいこと!これぞ管楽器の専門たる吹奏楽の面目躍如であり、パイプオルガンがステージ上に2台出現したような感覚に襲われました。メイエの棒は勢い重視でやや振り切りかけるところもあったように感じましたが、最後の大団円まで緊張感を切らすことなく駆け抜けた名演でした。これはぜひとも音源化してほしいものです。

 

今期の定期演奏会もあと1回。次は2月です。
運営体制の変更など、なかなか厳しい状況とは推察しますが、演奏自体は毎回素晴らしいものを聴かせてくれています。今後も応援していきたいですね。

東京佼成ウインドオーケストラ「第155回定期演奏会」

前回の定期を聴いた際は次が結構先だなと思ったものですが、いつの間にやら今日を迎えていました。

 

01.主題と変奏(A.シェーンベルク
02.交響曲第3番(V.ジャンニーニ)
03.パッサカリア(A.リード)
04.交響曲第3番(A.リード)

 

 本日は正指揮者の大井氏による演奏。シェーンベルク、ジャンニーニ、リードといった吹奏楽の伝統的な楽曲が取り上げられました。ジャンニーニはリードの師でもあり、リード関連の楽曲が3/4を占める演奏会だったといえます。ちなみに今年はアルフレッド・リードの生誕100年であり、広島ウインドなどもリードにフォーカスした演奏会を行っていました。

 

 前半はまずシェーンベルクの「主題と変奏」。シェーンベルクが学生向けに書いた曲で、提示される主題がアレンジされて繰り返される変奏曲というフォーマットは確かに学生に取っつきやすいスタイルとも言えます。しかし実際の内容はかなり硬派で、シェーンベルクらしい複雑なメロディと凝った変奏で難易度はかなり高く仕上がっています。 

 

 TKWOの演奏はそんな難解に見える楽曲をかなり解きほぐして提示するような端正なもので、特に楽器間での音量バランスのとり方が絶妙だったように感じました。ともすれば見失いがちな主題を追いやすく、なるほどこういう曲だったのだな、とあらためて魅力に気づくことができました。

 

 続くジャンニーニ「交響曲第3番」は非常に快活な楽曲で、TKWOも今までに何度も取り上げたことのあるもの。私もフェネル指揮の音源を所持しています。かっちりとした構成の楽曲でありながら、そのテンションの高さから後半にかけ一気呵成に駆け抜けるイメージも強い曲ですが、ここでも大井氏はメリハリのきいた見事な演奏を披露。特に四楽章での木管の速いパッセージのしなやかさと金管のファンファーレ音型の対比など鮮やかで聴き惚れました。二楽章のオーボエのソロも素晴らしく、あらためて何回も演奏されるだけある名曲と思いました。

 

 休憩を挟んでリードの「パッサカリア」。これは今日の白眉でしょう。冒頭に提示される短いテーマが低音部で繰り返し演奏され、その上で様々な展開が繰り広げられる曲です。これも変奏曲スタイルとも言えますが、シェーンベルクとは全く異なる響きが引き出されます。前半はバッハのシャコンヌのような厳かな響きではじまり、中間部でハープが加わってからのロマンティックな響きはとてもアメリカ的。終結部に向かって巨大建築を建てていくような盛り上げも圧倒的でしたし、連続性を保ちながらも場面ごとのキャラクターをしっかり描き分けた演奏力にも感服です。

 

 最後はリードの「交響曲第3番」。シリアスにがっちり構成されたパッサカリアに比べ、こちらはいわゆるリードらしさにあふれた作風の楽曲で、三楽章構成です。一、三楽章でのこれぞ吹奏楽という鳴らしっぷりは感動的でしたし、二楽章の綺麗な組み上げも素敵でした。大井氏の正指揮者就任時のアルメニアン・ダンスでも感じたことですが、大井氏とTKWOの組み合わせでのリード作品はそれまで聴いた響きよりもあきらかに解像度が高く、よりくっきりと細かいところまで見えるように感じます。リード作品はゴージャスな響きがする反面、よほどうまくやらないと厚ぼったく聴こえる瞬間ができてしまうことがあると思うのですが毎回素晴らしい演奏を聴かせてくれありがたい限りですね。

 

 大井氏が取り上げる吹奏楽オリジナル作品は毎回楽しみにしているので、来期はどのような選曲で来るのか今から楽しみです。

2021年ベストトラック(23曲)

2021年ももう半年過ぎるなんて…。
とはいえ今年も在宅時間が多かったのでいろいろ聞くことができました。特に気に入った楽曲群を紹介します。

 

・BLINK(COALTAR OF THE DEEPERS
・エッビーナースデイ(名取さな)
・狼欒神社(Sound Horizon
・歌劇「空飛ぶゾルバ」より「夢」(特撮)
・明星(MUCC
・朧(DIR EN GREY
・John L(black midi
・巣食いのて(長谷川白紙・諭吉佳作)
・EMINENT SLEAZE(Steven Wilson)
・Sorry(Danny Elfman)
・Drilled to Kill(Michael Schenker Group)
・Knappsack(Steve Vai
・Hypersonic(Liquid Tension Experiment)
・Crosses(Edu Falaschi)
・WHATEVER IT TAKES(Raise Our Hands!)(GALNERYUS
・SKYFALL(Helloween
・Berserker(Acid Mammoth)
・Inhumane Harvest(Cannibal Corpse)
・Paint the Sky with Blood(Bodom After Midnight)
・Day and Afe(Frost*)
・われ死者の復活を待ち望む(東京佼成ウインドオーケストラ
・what if?(鷺巣詩郎
・One Last Kiss(宇多田ヒカル

 

・BLINK(COALTAR OF THE DEEPERS
 初期メンバーであるVisitorsチームでの活動が活発化していた2019年後半。ライブは毎回盛況でメンバーたちも楽しそう。そしてこの1atアルバムの再レコーディングが発表され…その時はリリースまでにこんなに世界が変わるとは夢にも思わなかった。近年のCOTD作品はNARASAKI成分が強く、よりモダンな音像になっていたのだが、Visitorsチームを迎えたこの再録はまさに「バンド」の音。純粋にレベルアップしたサウンドという感触でとてもさわやかな気持ちになれるアルバムだった。

 

・エッビーナースデイ(名取さな)
 バーチャルYoutuberの名取さなによるオリジナル楽曲。もともとは2020年の3月7日に初のワンマンライブが開催されるはずだったが延期。一年の準備期間を経てこの曲を含む新曲を多数準備して2021年にリベンジ開催となった。紆余曲折を踏まえつつもポジティブなパワーにあふれた楽曲となっており、ライブ中でもハイライトのひとつとなった。

 

・狼欒神社(Sound Horizon
 物語音楽という形式を編み出し精力的に活動を続けているRevo率いるSound Horizonの新曲。物理ソフトでは今までのCDではなくBDとしてリリースされた。楽曲の合間に選択肢が挟まれ、選択によって続く楽曲が変化するというゲーム的な手触りの作品であったが、リード曲となる本曲は比較的今までのSHの語法に近い。サブスクでも配信されたが、実際にBDで再生すると中間部のソロパートでの楽器がランダムとして再生され、ライブ感のある表現になっていた。

 

・歌劇「空飛ぶゾルバ」より「夢」(特撮)
 大槻ケンヂ率いる特撮の新作アルバムから。アルバム「エレクトリック・ジェリーフィッシュ」はコロナ禍の空気をうまくとらえつつも一歩退いて「最後には死ぬというネタはすでにわかっている」という目線から世界を見つめなおしたもの。この曲はアルバムの後半でのクライマックスを形作るもので、歌劇とあるように、ストーリーに沿って小さな楽曲を各メンバーが歌い、最後はみんなで大団円…という内容。

 

・明星(MUCC
 SATOち脱退。そこまでMUCCを熱心に追っていたわけではない身にとってもこのニュースは衝撃的だった。インタビュー記事を読んだ限りでは寂しいが何も言えないな…という感想。SATOちのいる体制で最後となるこの楽曲は歌詞をメンバーが共作しており、彼らの郷愁あふれるメロディが素直に出た楽曲に仕上がっている。最後だからと力むのでもなくストレートで真っ向勝負してくるのが嬉しい。

 

・朧(DIR EN GREY
 ARCHE以降のDEGには乗り切れていなかったのだが、去年の「落ちてきた空」は響いた。思えば私が彼らにハマったのもUROBOROS~DSS期であり、社会的にインパクトが発生したときに彼らが生み出す作品の感触が好きなのかもしれない。この楽曲は彼らのメロディアスな部分が強調された楽曲で、この後のアルバムにも期待が高まる。

 

・John L(black midi
 前作もすごかったが今回はより練り上げてきたなという印象。しかしフレーズの強度とアンサンブルが練り上げられた結果としてサウンドZAZEN BOYSに非常に接近しているのは面白いところ。高密度でありつつもアルバム通してするっと聴けてしまう謎の中毒性もありかなり衝撃的だった。

 

・Drilled to Kill(Michael Schenker Group
 伝説的ギタリストでありながら今もかなり精力的に作品を発表しているMichael Schenker。基本的には彼らしい古き良きハンドメイド・ロックなので極上のギタートーンと歌心を堪能するのがメインの楽しみ方になる。今回はゲストに元Dream Theaterのデレクを迎えてソロバトルを挿入しており、Keyとバチバチに戦うマイケルが見られるという意味では貴重。

 

・Knappsack(Steve Vai
 手の怪我により片手しか使えなくなったVai。普通であればまずは回復に専念し、全快してから演奏活動に復帰…となるのだろうが、治療中でも弾きたいと思ったら弾いてしまうし作品にしてしまうのが彼の凄いところ。しかも出来上がった楽曲が片手とは信じられないほどテクニカルなのだから唸ってしまう。

 

・Hypersonic(Liquid Tension Experiment)
 Dream TheaterのGtのジョン・ペトルーシ、Keyのジョーダン・ルーデス、King CrimsonのBaトニー・レヴィン、元Dream Theater(現Transatrantic等)のDrマイク・ポートノイという腕利きメンバーによるバンド。全員忙しいこともあり近年の活動はなかったが、コロナにより時間ができたことでまさかの復活。彼ららしい非常に技巧的な楽曲で、まだまだプログレッシブ・メタルの最前線は譲らないといったところ。

 

・Crosses(Edu Falaschi)
 ANGRAから脱退したVoエドゥによるソロアルバムから。近年のエドゥは元ANGRAのDrアキレス・プリースターらとANGRA在籍時の楽曲を演奏するライブなどを開催。オリジナル曲でも当時を思わせるパワーメタルをリリースしてきたが、本アルバムでもその路線は継続。なのだが、そのクオリティが滅法高い。もともとハイトーンだけでなく聴きやすいメロディラインも持ち味のひとつだったエドゥのメロディセンスが爆発しており、懐かしさ補正にたよらず純粋に最高のメタルに仕上がっている。

 

・WHATEVER IT TAKES(Raise Our Hands!)(GALNERYUS
 近年はコンセプトアルバム的なアルバムを作成し濃密な世界を構築していたガルネリウス。ドラマーの交代を経て心機一転といった印象のフレッシュなアルバムがリリースされた。特にこの楽曲は彼らの持ち味をバランスよく詰め込んだ(もちろんソロ成分は多い)もので、非常にキャッチー。Destinyを思い出させるような新たな名刺ができたなという印象を受けた。

 

・SKYFALL(Helloween
 マイケル・キスクカイ・ハンセンを加えた7人体制でPUMPKINS UNITEDとして世界を回ってから数年。彼らのケミストリーはさらに続いており、ついに7人体制としてのフルアルバムが完成。アルバム名が「HELLOWEEN」であるあたりにもその自信と達成感がうかがえる。マイケル・キスクのハイトーンは今でも全盛期並みで、そちらに気を取られてしまうがやはり素晴らしいのは楽曲としてのクオリティとアレンジ。特にVoアンディ・デリスの貢献は最高で、楽曲としてコンパクトでライブ映えしそうなものを書いたり、場所によってはキスクより高い音域でコーラスを重ねたりと縁の下の力持ち感が凄い。本曲はアルバムの最後を飾る12分に及ぶ大曲で、カイの筆によるもの。SF的な世界観に乗せ彼らの声と演奏が飛翔してゆく。

 

・Paint the Sky with Blood(Bodom After Midnight)
 Children of Bodomの元フロントマン、アレキシの訃報が飛び込んできたのは年始だった。CoBの分裂から新しいバンドを立ち上げて、これからというところだった。リスナーにとってのせめてもの救いは、その新バンドとしての新曲が完成していたことだった。彼らがエネルギッシュだったころの感触を纏ったこの楽曲にはアレキシのこれからやっていくぜという気概が見て取れる。つくづく惜しい…。

 

・Day and Age(Frost*)
 Frost*は今年初めて聞いた。この新作が出ていたのを見て、まずは名盤というものから聞いてみようと「Milliontown」に手を出してみたところ、一発で虜になってしまった。プログレッシブ・ロック由来の抒情性、世界観をぱっと持っていく力に加え、個々のフレーズのクオリティが半端ではなく、長い曲であっても飽きることなく聴きとおせる。この新曲でもその個性は継承されており、とにかくメロディが良い。楽器成分が強くなりがちのプログレにとって、歌メロが良いというのはこうも強い武器になるのか。

 

・われ死者の復活を待ち望む(東京佼成ウインドオーケストラ
 TKWOの定期演奏会にはなるだけ足を運ぶようにしている。彼らの演奏が素晴らしいのはもちろんのこと、正指揮者の大井氏や団としてのスタンスが応援したいなと思えるからだ。コロナによりライブだけでなくオーケストラのコンサートも軒並み中止や延期となり、TKWOの定期演奏会が復活したのはこのメシアンの楽曲が演奏された公演からだった。打楽器が印象的な空間的な楽曲だが、この演奏が終わった後の噛みしめるような拍手は忘れないと思う。

 

・what if?(鷺巣詩郎
 シン・エヴァンゲリオンこれにて完結。映画自体も非常に満足感のある内容だったが、クライマックスで使用されるこの楽曲がよかった。鷺巣による美しいメロディーを天野正道オーケストレーションしたもので、いかにも天野らしいフレーズが過剰なほどに装飾された絢爛豪華なサウンドに仕上がっている。ジャイアント・ロボやバトル・ロワイアルの劇伴で見られるような壮大なサウンドが好きな人間にはたまらない。

 

・One Last Kiss(宇多田ヒカル
 あれもエヴァ。これもエヴァ。そもそも映画の予告映像でこの曲が流れていた時点で「勝ち」が約束されていたんだなと今となっては思う。楽曲としても素晴らしいし映画のエンディングとしても最高だった。あの光景、忘れないんだろうな…。

cali≠gari × deadman「死刑台のメロデイ 2021/06/24 1部 HOLIDAY Shinjuku」

cali≠gari

01.-踏-

02.トカゲのロミオ

03.トレーションデモンス

04.暗中浪漫

05.色悪

06.そして誰もいなくなった

07.エロトピア

08.鐘鳴器

09.淫美まるでカオスな

10.マッキーナ

 

deadman

01.lunch box

02.溺れる魚

03.受刑者の日記

04.盲目の羽根と星を手に

05.Follow The Night Light

06.体温

07.Family

08.alice

09.quo vadis

10.re:make

 

■セッション

01.死刑台のメロディ

 

観てきました。

もとは2020年に「死刑台のエレベーター」公演が予定されていたのですが、去年は公演日程を縮小しての開催になっていました。今回はその振替も兼ねた第2弾となっており、その期間を利用してさらにコラボレーション楽曲も1曲追加されました。

 

まずはカリガリ。この1年ほどの間でも止まらずにブルーフィルムのリバイバル盤であったり15予告版をリリースしてきた彼らですが、エロトピアで古くからのファンへの目くばせも忘れず、メインは復活後の楽曲というセットリストでした。「10」「13」からそれぞれ2曲ずつ選曲されていましたが、とくに13からのトカゲのロミオと色悪は近年のカリガリのカッコよさが高純度で出た楽曲なのでよかったですね。石井さんの楽曲が多かったこともあり、全体としてオシャレな印象が強く出ていたと感じました。MCでは石井さんが「青さんにどんな面白いMCをするんですかって言われたから青さんが満足するようにdeadmanのファンに嫌われたくない話をすることにした」という話をしており大変面白かったです。

 

デッドマンは初めて見ました。去年の「死刑台のエレベーター」配信で楽曲を知り、蟻塚のパフォーマンスにぶっ飛ばされたくちなので、ライブを観ることができて感無量。グッときたのはサウンドの生々しさと切れ味。ヴィジュアル系らしい激しいビートにザクザクと切り込むギターが心地よく、その上を自由に浮遊するボーカルラインも面白いですね。Follow The Night Lightでの手を伸ばすしぐさや体温で柵に座ってバンドを見ながら歌うなど、印象的なシーンも多数ありました。実演だと数倍楽しかったaliceの後はこれでもかという攻撃力のquo vadisとre:makeで締め。特にquo vadisの最後のキメはもう圧倒されますね。1部では蟻塚は見られなかったのは少し残念。DVDで楽しむことにします…。

 

セッションでは新曲「死刑台のメロディ」。前作「死刑台のエレベーター」はわりと素直にコラボした感じでしたが、今回は展開がかなりプログレッシブ。Aメロは誰、Bメロは誰…のような境界がはっきりしたコラボレーションではなく、より細かくフレーズ単位で各メンバーの音が混ざり合っており、よりバンド感のある曲になっていたように思います。

 

全体を通してとても満足感のある公演でした。最高の組み合わせなのでまたやってほしいな…。

東京佼成ウインドオーケストラ「第154回定期演奏会」

4月の定期が中止になってしまったため、第153回はとばして今回、第154回。

 

01.フローレンティナー・マーチ(J.フチーク/M.L.レイク 編/F.フェネル 校訂)
02.吹奏楽のための抒情的「祭」(伊藤康英)
03.「指輪物語」よりⅠ・Ⅲ(J.デ・メイ)
04.ブルー・シェイズ(F.ティケリ)
05.古いアメリカ舞曲による組曲(R.R.ベネット)
06.ウェディング・ダンス(J. プレス/H. ジョンストン 編/F. フェネル 校訂)
07.美しきドゥーン川の堤よ土手よ(P.グレインジャー)
08.行進曲「ローリング・サンダー」(H.フィルモア/F.フェネル 校訂)
09.行進曲「ヒズ・オナー」(H.フィルモア/F.フェネル 校訂)
10.シェナンドー(F.ティケリ)

 

 今回のTKWO定期はF.フェネルの弟子でもある原田氏による指揮で、フェネルゆかりの楽曲が多く取り上げられた企画。特に後半はフェネルがよくアンコールとして取り上げた楽曲をメインプログラムとして取り上げており、熱い演奏会でした。原田氏の棒はたしかにフェネルを感じさせるもので、感情に強く重点を置いたような派手な印象。

 

 フローレンティナー・マーチはフェネルが初めてTKWOを振った際の楽曲とのこと。整った響きを見せつつ、中間部ではガラッと印象を変え、たっぷりと歌わせていました。行進曲といえどコンサートとして再解釈を行っているような感触で、確かにこの辺はフェネルの弟子という印象を受けました。抒情的「祭」は青森の海上自衛隊大湊音楽隊に書かれた作品で、ねぶたなどを題材に祭りの情景を描いたもの。大太鼓が用意され、後半でのtutti部ではかなり大きく鳴らしていました。前半の静けさからの対比と最後のまくり具合がすさまじかったです。中間部のユーフォニアムも最高。

 

 指輪物語は1,3楽章のみの演奏。ガンダルフスメアゴルについての楽章ですが今回の見どころはなんといってもスメアゴルでのソプラノサックスのソロ。田中氏はおそらくグロー、フラッター、さらにはポルタメントといった特殊奏法をてんこ盛りで味付けを行っており、スメアゴルのえぐみがより強烈に表現されていました。中間部でのトロンボーンとのユニゾンも正確無比。tuttiでのキメがすこしふわっとした場面もありましたが熱のこもった名演でした。

 

 休憩をはさんでティケリのブルー・シェイズ。ブルースの影響を受けたという楽曲だけあり、クラシック以外からの要素を強く感じる楽曲。実演として聴くと想像以上に見て楽しい楽曲だったのだなと分かりました。特徴的なのは後半での長いクラリネットソロで、今回のTKWOでも立奏にて演奏。この曲も終盤のあおり具合が圧倒的でした。

 

 ベネットの古いアメリカ舞曲による組曲は様々な踊りを模したものでフェネルにより世界初録音されたもの。各スタイルをコンパクトにまとめたひとくちサイズの楽章が楽しめました。

 

 ここからはアンコールピース的な楽曲を連続で披露。グレインジャー以外はサーカスマーチ的な曲芸要素を含んだもので、純情ではないハイテンションによる演奏が繰り広げられました。美しきドゥーン川の堤よ土手よ、ヒズ・オナーはミッドウェストクリニックにてフェネルとTKWOが演奏した楽曲でもあり、どの曲も楽団員の思い入れが伝わってくるような好演。アンコールではティケリのシェナンドーでしっとりと終演となりました。特に静かな楽曲では演奏後に聴衆もしっとりと聴き入り、一呼吸おいてから拍手となって美しい時間が流れました。

 

 今回も楽しい演奏会でした。次は9月下旬。そのころ社会状況がどうなっているかといったところですが…。 

 

People In The Box「〈〈 noise 〉〉 was NOT cancelled. 2021/01/15」

■セットリスト

01.さようなら、こんにちは

02.おいでよ

03.懐胎した犬のブルース

04.無限会社

05.ミネルヴァ

06.冷血と作法

07.ストックホルム

08.She Hates December

09.失業クイーン

10.いきている

11.2121

12.どこでもないところ (Piano ver.)

13.月 (E.Guitar ver.)

14.世界陸上

15.逆光

16.聖者たち

17.ヨーロッパ

 

行きたくても行けなかったライブを配信で観られるのはうれしい!映像も手元のアップが多めで、どうやって演奏しているのかがよく見えました。演奏は絶好調、熟練の域にまで達しているように感じられ、発表当初は大変そうだったKodomo Rengou楽曲なども余裕や遊びが感じられ、とても良かったです。

 

波多野さんは親「さようなら、こんにちは」などで指にはめるタイプのピックで演奏。ピックによる固い音と指によるやわらかなニュアンスが同居して、波多野さんのスタイルによく合っていますね。福井さんの手元もよく見え、今までよくわからなかったスラップや和音弾きを確認できたのもうれしかったです。山口さんもacid androidでの経験値をプラスしたカッチリしつつもダイナミックな演奏。全体的にコーラスのクオリティがとても上がっていたのも特筆すべき点だったと思います。

 

懐胎した犬のブルース」で波多野さんはキーボードに持ち替え。ここでも手元が映るのが有難い。特に和音のところでの粒がそろった音は指の形をまっすぐに固めて弾いているからだったのだな、という種明かしになりました。福井さんのヴィブラートも抜いてくれて有難いポイント…。山口さんのフィルもよく見え、特にゴーストの細やかな混ぜ込みが見れるのは嬉しいところ。

 

「無限会社」ではベースもピック弾き。中間部の印象的なフレーズをアップで弾いていたように見えたのは驚きでした。「ミネルヴァ」のサビでは気合のフルダウンピッキング、後半は指弾きに切り替え。あらためてこのバンドは全員の演奏技術が高く、さらに実験的な精神が常にあるのが魅力だな…と感じますね。同じフレーズをとったとしてもこう弾くか…という驚きが大きいです。随所で入る波多野さんのラフな即興フレーズも年を経るごとに洗練されていっている印象があります。

 

「冷血と作法」は特に好きな曲のひとつ。特に中盤まではほぼ同じベースラインが続くのですが、それでここまで展開が出せるというのも不思議。終盤の加速パートでのベースの和音部分、一瞬手元が映ったことによりやっとどうやってるかの糸口が見えてきたかもしれません…。ここ、奇数回と偶数回で下の音が違うんですよね…。

 

ストックホルム」は今までで最高のテイクでは。Family Recordあたりから作品当時の社会の空気感が大きく作品に反映されるようになってきていますが、今の楽曲として聴いても響くところがあるのはさすが。彼らの音楽は直接的に何かを表しているということはないのですが、文章がわかりづらいかというとそうではなく、あくまでキャッチーな部分を残してあるんですよね。

 

少し久しぶりに聴いた気がする「She Hates December」「失業クイーン」。初期楽曲の静と動のコントラスト。当時ほどの鮮烈な演奏はしなくなった彼らですが、情景をかみしめるような包容力のある演奏に心打たれました。

 

「いきている」ではコーラスがオクターブ下。この曲は好きすぎて採譜も試みたことがある()のですが、音数がかなり少ないのにも関わらず彼らの世界観、サウンドとしてはかなり広さを感じるつくりになっていてアレンジ力のすごみを感じます。

 

「どこでもないところ」はピアノアレンジで。印象的なフレーズはそのまま残しつつすっきりとした空気を感じるサウンドに。特に音が少なく濁りづらいぶん、歌のニュアンスがよく伝わってきたように思います。中盤の即興も素敵。そのあとのキーボードが休む部分ではベースとドラム、歌だけでここまでドラマティックな和音進行感が演出できるものかと目が覚める思いでした。

 

「月」では逆にギターアレンジで。ギター弾き語りの形式に近づいて、こちらは原曲より体温というか温かみを感じるサウンドになりましたね。Wall,Windowの楽曲は年月を経るごとに自分に響いてきている気がします。特にこの月には救われたという人も多いのでは。彼らの曲を聴いて思うのはロックバンドながら常にビートがあるわけではなく、そのビートのない箇所を大切にしているということ。もちろんドラムがないだけでピアノやギターがテンポキープをしている場面もあるのですが、クラシック的なアゴーギグを随所で感じるというか、有機的に伸び縮みするビートを3人が共有しつつ進めていく様が美しいなと思うのですね。

 

「逆光」も聴くたびに新しい良さが見えてくる曲。構築されているように見えて絶妙に遊びのあるバランス感覚は楽曲の姿を確定させずに常にブラッシュアップしていく彼らならではのもの。特に2Aのパートでのベースライン、コーラスと一体化するボーカルの歌い分けには痺れました。

 

最後は「ヨーロッパ」。これもメインリフを繰り返しながらだんだんと盛り上がっていって途中から早い別のリフに切り替わる、彼らのお得意のタイプの楽曲(こう特徴を抜き出すと、なんだかブラック・サバスのようにも見えますね)。10年前はある種の切迫感をもちつつ演奏されていたこの楽曲が、微笑みをたたえながら慈しむように演奏されていくのはなんだか浄化されるような感覚すら覚えました。それこそKodomo Rengouの「かみさま」とも地続きなこのサウンドに飲み込まれる感覚はここでしか味わえない音でしょう。

 

とてもよいライブ、配信でした。

本ライブはBDとして発売され、映像も別のものとして収録されるとのことでそちらも楽しみですね。