People In The Box「Tabula Rasa」

最近めっきりだったアルバム紹介をします。

 

People In The Box「Tabula Rasa」

 

昨年に発表されたPeople In The Boxの最新作。

Kodomo Rengouでは過去のPITBの要素すべてのいいところを活かしつつも一歩推し進めた名作でしたが、今回はそこからさらに進んだ挑戦的な内容です。

 

まず耳をひくのはキーボードの存在感で、楽曲の半数以上のメインリフが鍵盤によるもの。さらにそのリフがメロディというよりも和音を軸にしているところもポイントです。それでいて歌心を感じるフレーズになっているのは波多野さんの幅広い音楽性によるものだといえるでしょう。ギターも演奏されますが大半がクリーンやアコースティックの音色であり、バンドサウンドとしては非常にやわらかです。そのぶん「ミネルヴァ」や「装置」最後のギターが際立って刺さってきますね。

 

ベース福井さん、ドラム山口さんとの絡みも素晴らしく、各楽器が会話をしているかのように楽曲を推し進めていくさまは感動的です。中でも私が好きなのは「いきている」。リフのリズムの表裏がどちらかわかりづらいトリッキーなところもそうですが、何より音数がここまで絞られているとは思えないほどの内容の濃さに驚かされました。特に山口さんのドラムはあえて手数を絞り切ったうえで流麗なビートを作り出しており圧巻です。さらっとハーモニクスを混ぜたりと高度なプレイを決める福井さんのベースも聴きどころ。

 

歌詞についても面白いところが多く、以前のPITBだったらもっとぼかしただろうなと思われるような表現、言葉選びが多いように感じました。Family Record頃は匂わせるくらいだった社会とのかかわりを包み隠さずに表出させるようになってきているような。それはKodomo Rengouでの成功から得た自信によるものかもしれませんし、段々と移ろってきた今のモードがそうだったということでもあるのでしょう。「まなざし」のクライマックスで耐えられますようにと繰り返すさまはほのかな狂気すら感じさせ、同時にどうしようもなく美しくもあります。

 

People In The Boxと人類の2019年の断面が視える傑作です。

 

↓これは好きすぎて耳コピをこころみた「いきている」です