2021ベストアルバム +α

今年聴いた中で特に好きだったものを10+α選出しました。

重要度とかでいうといろいろあった気がするんですが、自分が語りたくなるくらい好きになったものという基準で。

 

01.cali≠gari「15」

02.筋肉少女帯「君だけが憶えている映画」

03.人間椅子「苦楽」

04.東京佼成ウインドオーケストラ「保科洋:交響曲第3番」

05.Dream Theater「A View From The Top Of The World」

06.black midi「Cavalcade」

07.Frost*「Day And Age」

08.Deafheaven「Infinite Granite」

09.HelloweenHELLOWEEN

10.King Crimson「Music Is Our Friend」

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11.YES「The Quest」

12.Coaltar Of The Deepers「REVENGE OF THE VISITORS」

13.Exodus「Persona Non Grata」

14.八十八ヶ所巡礼「幻魔大祭」

15.鷺巣詩郎「Shiro SAGISU Music from "SHIN EVANGELION"」

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以下、各アルバムの感想です。

 

01.cali≠gari「15」
COVID-19の影響下にあっても歩みを止めず、それどころかより精力的に作品を発表してきたカリガリ。昨年はブルーフィルムの20周年記念盤という変化球だったが今年はオリジナルアルバムだ。

まず1曲目から今までの彼らからのさらなる進化を感じさせる。桜井が原曲をつくり、石井が完成させるという今までにないタイプの共作である「一つのメルヘン」は彼らの持っていた要素の新しい一面が見えた楽曲。カントリー的な風景を見せつつ疾走感やスパニッシュなベースソロなど、ひとときも気を抜けない。

デヴィッド・ボウイ的な「100年の終わりかけ」では石井曲と思えないほど直接的な歌詞表現が顔を見せる。後半の桜井楽曲の連発も今までよりさらに強力だ。

今作はドラムが複数名によるものであるところもポイントで、個人的には元ガーゴイル、現クロマニヨンズ桐田勝治の参加が嬉しかった。期待通りの強烈なドラムが聴ける。

 

02.筋肉少女帯「君だけが憶えている映画」
大槻ケンヂの歌詞は凄い。そんなことは筋肉少女帯と特撮を追ってきている者に対しては釈迦に説法だろうが、それにしても今年は彼の凄さを再確認するよい機会となった。

数多くのミュージシャンがCOVID-19に影響された歌詞を書いているが、ここまでバランス感のとれた歌詞は大槻ケンヂにしか書けない。これは彼のオカルトに対するスタンスから考えると納得がいくことで、彼は以前から社会現象を見据えつつも現象そのものだけでなく「それに相対したときの人々を観察する」という視点が強い書き手であった。これは彼が読書家であることと無関係ではないだろう。

読書により様々な価値観、世界観に触れてきたからこそ醸し出される凄み。特撮「エレクトリック・ジェリーフィッシュ」と合わせてどちらも傑作である。

 

03.人間椅子「苦楽」
人間椅子筋肉少女帯と似たバックボーンを持つバンドであるが、同じようにCOVID-19の影響を強く感じさせつつもこちらはぐっと個人レベルまで目線を落とし込んだ内容。

サウンドもいつもに増してヘヴィであるが、苦楽という名の通り、耐え忍んだあとにある極楽浄土への希望を感じさせる芯の強さが魅力だ。とくに「夜明け前」での文学的な感動は筆舌に尽くし難い。

ギター演奏も冴えわたっており、効果音的な「見立て」奏法も「疾れGT」などで聴くことができる。

 

04.東京佼成ウインドオーケストラ「保科洋:交響曲第3番」
60周年を迎えたTKWOだが、裏では経営状況の苦しさから存続も危うい状態になっていたようで、つい先日、母体の宗教団体からの独立とそれに伴う賛助会員制度の発表が行われた。

この録音は60年記念定期演奏会での委嘱作品をメインにしたもので、近年の演奏会の中から大井氏が指揮した名演が並ぶ。いずれも現地で実演を聴いた演奏であるが、中でも保科による表題曲は今までの吹奏楽人生を振り返りつつもさらに強い意志を感じさせるような強靭な作品。

また、TKWOのすばらしさは演奏だけでなく録音でもそうで、「デチューン」「水面に映るグラデーションの空」といった現代音楽的な手法を含む楽曲であっても、その録音のクリアさにより空間的な表現が最大限表現されているように感じられる。

いわゆるコンクール受けするような内容ではないのだが、吹奏楽サウンドに興味がある人にはぜひ手に取ってほしい名盤だ。

 

05.Dream Theater「A View From The Top Of The World」
現体制になってから早くも10年。その間も定期的にアルバムをリリースし続けてきたDream Theaterであるが、正直なところThe Astronishingを代表に、どこに向かうのか見えづらい時期であったようにも感じていた。

しかし今作は良い。これの前にLTE3があったことも影響したのか、楽曲の展開にポートノイ的なワクワク感が戻ってきているように感じたのだ。もちろんポートノイ期のそれがすべてポートノイに拠っていたわけではないと思う。これは推測だが、彼の抜けた穴を埋めるのではなく新たな方向性を模索したいという思いからここしばらくは彼のようなフィーリングを避けていた部分もあったのではないだろうか。

LTE復活によりその枷がはずれ、よりのびのびとした構成が描けるようになっているように感じる。マンジーニのドラムもより有機的に噛み合い、聴いていて純粋に楽しい。

 

06.black midi「Cavalcade」
比較的新しいバンドであるblack midi。前作も聴いていたのだが凄いとは思いつつハマってはいなかった。

今作は楽曲としてのまとまりが飛躍的に向上し聴きやすいとともに、プログレッシブロックなどからの影響を雑多に取り入れたカオスな音世界が表現されており、一聴して「なんだかすごいものを聴いた」感がある。

MVも強烈な「John L」もいいが、最後の浮遊感あふれる「Ascending Forth」まで素晴らしく緊張感を保ちながらするっと聴ける。管楽器とピアノを含めた暴れる音像には、直接的には似ていないがサン・ラーも想起させられた。

 

07.Frost*「Day And Age」
今年はプログレッシブロックの話題が多い年でもあった。中でも春に発売された「PROG MUSIC DISC GUIDE」は強烈で、いわゆるクリムゾンやELP、イエスといった大御所でなく現代的なバンドに焦点を当てた選出が面白かった。

中でも私が興味をひかれたのはちょうど新作が出たばかりであったFrost*で、せっかくだからと1stのMilliontownを聴いてみたところ…そのあまりの完成度の高さにぶっ飛ばされてしまい、一発でファンになってしまった。次の日には新作も購入していた。Frost*は群を抜いてテクニカルというわけでもない。とてもポップというわけでもない。すべてのバランスがちょうどいいとしか形容できない。

新作もそうで、タイトルトラックから10分超えであるのに歌メロのキャッチーさや楽器群の積み上げ方、サウンドのクリアさによってするっと聴けてしまうのだ。アルバム全体を通してモチーフを共有する手法も巧みで、何度も聴いて噛みしめたいアルバムになっている。オタクは伏線回収が好きなので…。

 

08.Deafheaven「Infinite Granite」
ブラックメタルシューゲイザー的解釈を付加したゲームチェンジャー的アルバム「Sunbather」が衝撃的だったDeafheavenの新作はなんとブラックメタル成分がほぼ感じられない仕上がりとなっていた。

トレモロリフもツーバスも、シャウトすらもほとんど存在しないが、それでも彼ららしいと感じるのは変わらない歌心にあふれたメロディラインがあるからだろう。前作もメタルから少し離れた音作りになっていたので、個人的にはそこまで方針転換の意外性は感じなかったが、それにしてもよくここまで振り切ったなとは思った。

クリーンなギターとヴォーカルによって浮遊感のある心地よい空間が醸し出されるからこそ、一瞬挟まれるブラックメタルの攻撃性がより活きてくる。純粋に武器が増えたと受け取ってもよいかもしれない。まだまだ先が気になるところ。

 

09.HelloweenHELLOWEEN
マイケル・キスクカイ・ハンセンが復帰してから何年も経つ。パンプキン・ユナイテッドとして単発の活動かに思われたがその成功ぶりからHELLOWEEN本体としてこの体制で行くことになったのだろう。

個人的にはアンディとサシャも大好きなので、相対的に彼らの見せ場が減ったのは少し寂しくもある。しかしながら良好な関係性から生み出される譲り合いと適材適所による楽曲の数々により彼らのオリジネイターとしての強さを再確認できる名盤となった。個人的によかったのは現行ハロウィンを守ってきたアンディとサシャの貢献で、とくにアンディのヴォーカルの縦横無尽さには胸が熱くなった。

マイケルとカイという強力な初期メンバーの良さを最大限に尊重しつつ、場合によっては彼らより高音でハーモニーを受け持つなど縁の下の力持ちぶりが見事。

 

10.King Crimson「Music Is Our Friend」
プログレッシブロックの大御所であるKing Crimson。彼らは新曲を作るよりも今まで作り上げてきた楽曲に新しい命を吹き込むことを選んだバンドだ。

といってもネガティブな意味ではなく、ある意味でクラシックやジャズに近い。名曲の良さを活かしつつも演奏者の個性を注入していくということで、今回のトリプルドラム編成になってからは最初期の曲も演奏し、トリプルドラムによるリズムの面白さを十二分に生かしたとても面白い音楽を作ってきていた。これは今年に行われ、日本でその最後を迎えた「締めくくり」となるツアーの記録だ。

各地での演奏1回1回がその地での最後のKing Crimsonになるかもしれないというこのツアーでは、必然的にセットリストはオールタイムベストとなったし、演奏も遊びの少ない筋肉質なものとなった。英国らしい遊びが少ないことを寂しいと思う一方で、キレキレの演奏をできるうちにここまでの完成度を見せつけてくれたということには感謝したい。

Crimson好きの人はこのアルバムと、彼らのサイトDGM Liveをチェックすることをお勧めする。(本作には収録されていない、トリプルドラムのDrumzillaなどがダウンロード可能だ。)

 

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11.YES「The Quest」
King CrimsonEL&P、YES。いわゆるプログレッシブ・ロックを代表するバンドであるが現時点で新曲をスタジオレコーディングしてリリースしているのはこのうちYESのみ。Crimsonのようにライブを研ぎ澄ませていく道もあったと思うが数々のメンバーチェンジを経ても新作を作り続ける姿勢には頭が下がる。

肝心の内容について、個人的にはかなり気に入っている。もちろん全盛期のようなヒリヒリとしたバトルなどは存在せず、どちらかというと癒しの音楽といったほうが近いだろう。長い歴史の総括に入ったバンドが「A Living Island」のような楽曲で作品の本編を締めくくるというのは感動的だ。終盤の定石ともいえるコード進行の上で高らかに歌い上げるスティーブ・ハウのギターは何度も聴きたい名演。

 

12.Coaltar Of The Deepers「REVENGE OF THE VISITORS」
COTDの初期メンバーによるライブが活性化して数年。これからガンガンいくぜ!となっていた中でのCOVID-19であったが、その前からアナウンスされていた初期楽曲の再録音は進められており今年ついにリリースされた。

当時の楽曲のエネルギーはそのまま纏いつつもサウンドや演奏は現在らしいモダンなものにアップデートされている。原作ではくしゃっとまとまった塊だった音が、解像度が上がり包み込まれるような轟音に変化を遂げている。大人になって懐かしむ青春の味といったところか。

 

13.Exodus「Persona Non Grata」
スレイヤーの活動終了によりエクソダスに注力できるようになったゲイリー・ホルト。しかし本作を作り始めるタイミングでのCOVID-19。多くのバンドもこのタイミングでレコーディングをしていたようだが、エクソダスの場合はその影響がドラムのレコーディング方法に直接的に表れたようだ。

今まではドラムトラックは最初にレコーディングし、あとは変更不可だったものが、メンバー自宅のスタジオでいつでもドラムを録りなおせる状況でレコーディングを完遂させたとのこと。つまり弦楽器のアレンジによりフィルや構成などを変えたくなってもすぐに叩きなおして録音できる体制ということだ。ある意味で昔ながらの「レコーディングできる状態まで楽曲を完成させてからレコーディング」にも近いように感じるが、今回はそのかいあって確かにドラムが素晴らしい。

いつものエクソダスらしいザクザクとした高品質スラッシュはそのまま、ドラムのアクセントの増加によりさらに攻撃性が増しているように感じられた。これはぜひライブでも観てみたい。そういうことが可能な状況が早く来てくれることを祈るばかりだ。

 

14.八十八ヶ所巡礼「幻魔大祭」
八十八ヶ所巡礼は個人的にはとらえどころのないバンドという印象で、楽曲自体はとてもテクニカルでありつつも世界観は独特というか見え方が違う感のあるものだった。今作はタイトルトラックがサブスクで配信されたり、ライブDVDが付属したりと彼らの実態を伺いやすかったように思う。

ライブ映像を見ることで理解度が段違いに上がった曲も多かった。作品としては世情を反映しつつもフィクションとしてのストーリーに回収するなど距離感も見事。

 

15.鷺巣詩郎「Shiro SAGISU Music from "SHIN EVANGELION"」
今年はエヴァが終わった年となった。偶然にも公開初日に予定休をとっていた私は朝2回目の上映を見に行った。エヴァにそこまで強烈な思い入れがない身としてもこの終わり方には強く感じるところがあり、とても良かったのだが、サントラにもたいそう興奮させられた。

特に盛り上がりの場面で流れるwhat if?は極上で、鷺巣のメロディーをバトルロワイヤルやジャイアントロボの劇伴で有名な天野正道オーケストレーションしたもの。天野は吹奏楽にも多くの曲を書いており、個人的にかなり思い入れの強い作曲家のため、ド迫力で鳴り響く鷺巣・天野サウンドにこれ以上ないほどの満足感を得ることができた。