トベコンチヌエド。

CDやコンサートの感想を主に書いています。

東京藝大ウィンドオーケストラ「第100回定期演奏会 @ 奏楽堂 2025/11/15」

TGWOの定期演奏会に行ってきました。
100回目という節目の回であることもあり満員。
曲目も祭に関連するにぎやかな曲がそろっていました。

 

■曲目
01.エル・サロン・メヒコ(アーロン・コープランド/編曲:マーク・ハインズレー)
02.メキシコの祭り(ハーバート・オーウェン・リード)
03.リベルタドーレス(オスカー・ナバロ)
04.交響詩「ローマの祭」(オットリーノ・レスピーギ/編曲:木村吉宏)

 

■プレコンサート
01.「ラ・ペリ」のファンファーレ(デュカス):金管12重奏
02.結婚の踊り(ハセナ):クラリネット8重奏
03.ホルベアの時代から(グリーグ):フルート14重奏

 

■休憩中演奏(サクソフォン四重奏)
01.シウダデスより「アディスアベバ
02.シウダデスより「コルドバ

 

■終演後演奏(木管五重奏)
01.五重奏曲より 第1楽章(レスピーギ
02.小さな音楽の贈り物(ロータ)

 

前半は会場が暑めだったこともありちょっと意識がとびかけだったのですが、メキシコの祭りでのバンダからの舞台上のサウンドへの移行の部分や祭りの盛り上がり部分と静かな部分のコントラストなど綺麗に決まっていて心地よく聴きました。

 

休憩後は目当ての「リベルタドーレス」。TKWOの定期で聴いたときも最高でしたが、今回は大学の吹奏楽ということで人数も大編成。本場のスタイルにより近いといえるでしょう。トランペットが大量に並んでいる様子はこれぞ大編成という感じで興奮しました。


歌の箇所のみ参加のメンバーがいたり、フルートとチューバのソロは前に出てきてのスタンドプレイにしてみたり、後半の行進では開始時はスネア1台でだんだん増えていくなど演出が多彩でかなり大迫力。大井さんの持っていきかたもかなりサントラ的にキャッチーで、ドラクエコンサートなどのノウハウがこういうところにも生きているのかな?と思わされました。


最後のピッコロトランペット2本の超高音もスタンドプレイでの演奏。これもしっかり決めていてさすがでした。期待通りの演奏が聴けて本当に満足です。視覚的にも面白いので、これ動画とかで公開されないかな…と密かに期待。

 

最後は「ローマの祭」。これもオルガンやピアノ、マンドリンと多彩な楽器が入ります。昨年もローマの噴水や松を演奏していたので、これで1年でローマ三部作コンプリートということになりますね。


三部作のうち吹奏楽の大音量と最も相性がいいのがこの祭だと思いますが、これもたいへん素晴らしい演奏でした。特に印象的だったのは五十年祭、十月祭で、こういったアンサンブル要素の強い楽章でもしっかり聴かせてくれるのはさすがですね。特に打楽器群の活躍が素晴らしく、主顕祭に入ってからは打楽器パートに釘付けでした。大井さんの解釈も正統派な盛り上がり方で最高でした。

 

音大の吹奏楽は技術力の高さと、学生らしい文化祭のような高揚感を両立できる稀有な舞台だと思いますが、今回もその空気感をとても楽しむことができました。

 

名取さな「2nd Live 独ゼン者 夜公演 @ Zepp Haneda 2025/11/13」

名取さなの2ndライブに行ってきました。
昼夜2公演ですが、私は夜のみ参加。

昼は配信を購入済みなので、後でじっくり視聴します。

 

■セットリスト
01.オヒトリサマ
02.ヒトリガタリ
03.PINK,ALL,PINK!
04.パラレルサーチライト
05.代替嬉々
06.アイデア
07.アマカミサマ
08.光景
09.アングルナージュ
10.アウトサイダー
11.藍二乗
12.明証
13.誰かのための言葉
14.きらめく絆創膏
15.自分らしさに会いに行こう
En.
16.アニマルま~る
17.ファンタスティック・エボリューション
18.足跡

 

「名取さなはアーティストだった。」
というのが夜公演を見終えた今の感想です。

 

MCでも何度も触れられた「言いたいこと」。
それは感謝や親愛ではなく、激励でありアジテーションであったことに、私は長らく気づけていませんでした。

 

歌や演奏のクオリティが高いこと、それそのものによる快感があることはもうとっくに達成できていて、そのうえで、それらすべてをメッセージを伝えるために使い切ること。正直なところ、ここまでフルスイングをしてくると思っていなかったので驚きがかなり大きいです。

 

もちろん配信などでも折に触れ「丁寧なインターネット生活」への言及や「他人に迷惑をかけない」ことの推奨など、その思想の片鱗はありました。しかし私の中にはそれらの呼び掛けへ賛同しきれない気持ちも多少あったというのが正直なところでした。というのも、昨今のインターネット含めた世間の状況はその思想に逆行しているように見え、また、そういった理不尽や困難への対処としても「与えられるよう要求すること」や「奪い取ること」が選択される場面が多くなっており、既にそうなってしまっている世界をどうもできるわけがない、という諦念に似た感覚があったためです。

 

しかし今回提示されたのは全く別の角度。すなわち我々個人個人がより善く生きるよう努力することで世界をよくしようという提案であり、世界や自分を諦めている私のような者への勝手に諦めてるんじゃないという痛烈な叱咤激励だったのです(と、受け取りました)。

 

他人に迷惑をかけないというのはどだい無理なのだから、寛容になるしかない…と私は思っていました(今でもその思いはあります)が、それでも各人が善くあろうとしたほうが良いに決まっている、というのは本当にそのとおりで、改めて目を開かせてもらいました。

 

つまるところ、名取さんは音楽と言葉の力を、そして我々ファン(および人類)のことを信じているのだなと感じさせられました。それはとても強く、凄いことだと思います。そういった意味でも名取さんはエンターテイナーでありつつもアーティストであり、アジテーターであることにしたのだなと感じました。

 

「生きてて偉いは言ってあげられない」。ともすればついてこれない人間を振るい落とすマッチョ的受容もあり得る言葉ですが、その実はタフになろうという呼びかけであり、とても意義深く、勝手に頼もしくも感じてしまいました。今後も程よいファンとして活動を応援していきたい、そう感じた1日でした。

 

メッセージ面ばかりではアレなので音楽についても。

まず現地でのサウンドはかなり音圧があり、かつコーラス音量強め。音の塊が飛んでくる感があり、よき平成のライブサウンドという感じでたいへん楽しめました。配信を少し確認した感じだとそちらではかなり分離の良いミックスになっておりだいぶ印象が異なるため、現地参加組は一粒で2度美味しいと言えますね。照明や映像効果で印象的だったのは背面画面に縦に映し出された照明の演出で、奥行きのあるように見える描き方はスタンディング席から見たら本当に天井に見えたのではと思います(私は2階指定席でした)。

カヴァー曲も花譜、星野源、学園アイドルマスターと私が好きな曲ばかりで、こんなに私に都合のいいことがあっていいのか?とめちゃくちゃ嬉しかったですし、代替嬉々や新曲である誰かのための言葉でのようなポエトリーリーディングも素晴らしかったです。今回もライブCDが制作されるということですし、そうなったらまた細部のアレンジまで楽しみたいですね。

 

とにかく満足感のある素敵なライブでした。また次回があることを期待しつつ。

 

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cali≠gari「TOUR 18 @ HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3 2025/11/7~8」

カリガリのトゥワー、3回目・4回目の参加をしてきました。
2回の参加でもらえる2種の配布音源もこれでコンプリート。
世間ではルナフェスやらにじさんじのIdiosのツーデイズやらでツーデイズまみれの週末ですが、私はカリガリを選ぶぜ…!

 

■セットリスト(1日目)
01.藍より蒼く
02.ニッポニアニッポン
03.マス現象 ヴァリエーション2
04.ギャラクシー
05.×
06."Hello, world!”
07.まほらば憂愁
08.東京ロゼヲモンド倶楽部
09.空想カニバル
10.わずらい
11.愛の渇き
12.ポポネポ
13.東京亞詩吐暴威
14.ハイカラ殺伐ハイソ絶賛
15.破滅型ロック
16.青春狂騒曲
17.グン・ナイ・エンジェル
18.5670000000
En.
19.素知らぬ夢の後先に
20.スクールゾーン
21.スクラップ工場はいつも夕焼けで

 

■セットリスト(2日目)
01.藍より蒼く
02.ニッポニアニッポン
03.ハイカラ殺伐ハイソ絶賛
04.破滅型ロック
05.×
06.フラフラスキップ
07.ポポネポ
08.マス現象 ヴァリエーション2
09.素知らぬ夢の後先に
10.愛の渇き
11.デジタブルニウニウ
12.まほらば憂愁
13.ギャラクシー
14.東京亞詩吐暴威
15.グッド・バイ
16.グン・ナイ・エンジェル
17.スクラップ工場はいつも夕焼けで
18.5670000000
En.
19.ひらきなおリズム
20."Hello, world!”
21.×
22.クソバカゴミゲロ

 

1日目は仕事終わりに向かいギリギリに到着。かなりギュウギュウに埋まっており、なかなか身動きも難儀でした。

 

セットリストは18からの楽曲を全て(序盤から比べるとスクラップ工場が追加)と、30関連楽曲からの選曲。1日目ではまほらば〜ロゼヲモンドのシャッフルの流れが心地よく、その後の空想カニバルでのサウンドにも心地よく浸ることができました。後半のビートロック強めなパートも気持ちよく、5670000000もだいぶ馴染んで、エンディング感が出てきていました。

 

2日目は16時開演。休日に早めに開演してくれるのは正直なありがたく、仕事終わりでもないのでよりしっかり楽しめました。これまでとはかなり配置が異なるセトリで、前半にいきなりハイカラがあったり、まさかの×2回披露があったりと面白かったです。

 

デジタブルニウニウやグッド・バイ、ひらきなおリズムといったレア曲が聴けたのも特に嬉しかった点で、特にデジタブルニウニウはボーカルの振り分けがよりライブ向きになっていたようにも感じたいへん良かったです。MCがないぶん、桜井さんや村井さんがコーラスに積極的な気もしていて、そこも注目ポイントだったかなと。グンナイの歌い上げも最高級でした。

 

×を見るのも何回目かになりますが、改めてこの曲はコーレスもかなり難しいのではと感じました。三拍子なことと、最初と最後で出てくるパターンが別であることに起因する気がしますので、試しに譜面に起こしてみました。参考まで。

 




 

オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラのリリースペースが凄い話

オオサカシオン半端ないって!あの吹奏楽団半端ないって!
定期演奏会のたびにアルバムリリースするもん!
そんなんできひんやん、普通……そんなんできる!?
言っといてや!できるんやったら……

 

ワコーレコードからのリリースが開始してからのオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラのリリースペースが凄いです。
更にここ最近はそれらのCDがサブスクにも追加され、広く聴けるようになったようです(AppleMusicとSpotifyで確認)。
11月9日にはさらなる新作「グレグソン作品集」が予定されており、どこからそんな力が…と驚くばかり。

とはいえリスナーとしては嬉しいので、ひとまずリリースについて整理してみます。

 

①「ジェイムズ・バーンズ交響曲全集」 ※バーンズ作品集

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指揮:ポール・ポピエル
録音:2023年9月16日、24日、10月2日、8日(特別演奏会 バーンズ・チクルス、第150回定期演奏会
発売:2023年12月22日

 

吹奏楽というジャンルに実に9曲もの交響曲を書いた作曲家であるバーンズ。その交響曲をまとめて取り上げた4回に渡る演奏会の録音記録がこちら。第一交響曲は長いこと出版されていなかった幻の楽曲だったのですが、なんとこの機会のために改訂版が作成され初演となりました。吹奏楽を代表する曲のひとつといえるバーンズの第三交響曲も初演して日本に広めたのは大阪市音楽団。いわば本家の味です。あくまで伝統的な交響曲を踏襲した堅牢かつ盛り上がるバーンズの作風を楽しむことができ、資料的価値の高さもさることながら感動的なアルバムです。

 

②「惑星」 ※ホルスト作品集

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指揮:ダグラス・ボストック
録音:2023年1月28日(第146回定期演奏会
発売:2024年6月25日

 

イギリスものが得意なボストックによるホルストの作品集。吹奏楽の基礎の基礎ともいえる第一組曲、第二組曲の伊藤康英版でのハイクオリティな録音が聴けるのもポイントですが、後半に配置された惑星の全曲も聞きどころ。こちらはもとは管弦楽のための曲ですが、ホルスト作品集の流れとして聴くとまた単なるアレンジものとは異なる見え方をするのではないでしょうか。ボストックの指揮はスタイリッシュで、快速で進みつつも要所でぐっと重心を落として歌いこんでみせたりと自在です。

 

③「陽が昇るとき」

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指揮:現田茂夫
録音:2020年1月23日(第128回定期演奏会
発売:2024年7月31日

 

吹奏楽を振る指揮者は多大なレパートリーへ挑戦することを厭わない人が多いです。現田さんもそういった指揮者であり、これまでも数多くの作品を演奏してきています。ここではプロによる全曲録音としては珍しい陽が昇るときやチェザリーニの交響曲といったレアかつ重量級のプログラムが並びます。コンクールなどの現場ではカット演奏されることの多い曲の全体像を知ることができるという意味でもありがたい選曲ですね。

 

④「悪魔の聖書」

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指揮:現田茂夫
録音:2023年4月23日(第148回定期演奏会
発売:2024年7月31日

 

こちらも吹奏楽オリジナル曲が多彩に散りばめられたアルバム。大阪俗謡の主題による幻想曲はシオンも慣れたものですが、他にも定番の人気曲であるイーストコーストの風景を取り上げたかと思えば悪魔の聖書のような新作も取り上げ、温故知新といった趣を感じますね。

 

⑤「ドラゴンの年」 ※スパーク作品集

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指揮:ダグラス・ボストック
録音:2023年8月27日(第6回京都定期演奏会
発売:2024年10月11日

 

ボストックによるイギリス回。スパークはたいへん人気の作曲家で、金管バンド由来の機動力やさわやかさ、鮮烈さをそのまま吹奏楽でも味わうことができます。ここでの目玉はドラゴンの年で、快速なボストックの緊張感が最後まで保たれたピリッとした名演です。

 

⑥「リンカーンシャーの花束」 ※グレインジャー作品集

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指揮:ダグラス・ボストック
録音:2024年1月28日(第152回定期演奏会
発売:2024年12月16日

 

ボストックによるイギリス関連回。イギリス民謡を題材にとりグレインジャーが書いた名曲群を一挙に楽しめます。定番のリンカーンシャーの花束はもちろん、ローマの権力とキリスト教徒の心のようなオルガンを用いるややマニアックな曲、岸辺のモリーのような可愛らしい曲と多彩な魅力を感じ取ることができます。

 

⑦「シンフォニー・オブ・フリーダム」 ※ドス作品集

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指揮:トーマス・ドス
録音:2024年11月16日(第157回定期演奏会
発売:2025年6月9日

 

作曲家本人による作品集。吹奏楽では作曲家が指揮もしていることが多いです。シオンもかつてスパークなどの作曲家と共演してきましたが、本作はシダスなどの曲が近年人気のドス。本人による解釈という意味でも、プロ吹奏楽団によるドス作品という意味でも貴重です。ブルックナーの編曲作品が含まれているのが面白く、彼のドイツ的な構築美センスが表れているようにも思います。

 

⑧「だったん人の踊り」

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指揮:汐澤安彦
録音:2022年1月22日(第140回定期演奏会
発売:2025年7月10日

 

今年の頭に急逝した汐澤さんによるオーケストラからの編曲もの特集。アルバムタイトルのボロディン作品に加えシャブリエのスペインやワーグナーのエルザの大聖堂への行進など、一昔前に定番と呼ばれた楽曲たちを今のサウンドで。汐澤さんの指揮は大きな塊をぶつけられたようなインパクトがあり印象的です。ボストックの音楽性との違いとそれによる同じ団体ながら全く違うサウンドが面白いのでは。

 

⑨「剣と王冠 / 王は受け継がれゆく」 ※グレグソン作品集

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指揮:ダグラス・ボストック
録音:2025年4月26日(第160回定期演奏会
発売:2025年11月9日

 

そして今度発売されるのがこれです。今年開催されたグレグソン回の録音。有名曲であり、同じ題材からの別の抜粋のような形である剣と王冠 / 王は受け継がれゆくを軸に、ユーフォニアム独奏にスティーブン・ミードを迎えた豪華な内容。上記2曲はいずれもTKWOとボストックによる録音が存在する(剣と王冠は2種類もある)ので、そちらとの聴き比べも楽しめそうです。

 

…と、ここ2年強で実に9作品ものリリース。

また、オオサカシオンはアーカイブ配信こそ対応していないものの、定期演奏会ライブ配信を行っていることも多く、なかなか現地に足を運べないリスナーとしてもたいへん有難い楽団です。ぜひこの機会に作品に触れてみては。

 

 

…しかし、人間の欲というのは際限がないもので…

こんなにリリースできるなら、過去のあの定期やあの定期もいつか…と期待してしまいますね…。

個人的に密かに期待しているのはこの辺です…。

 

第8回京都定期演奏会 | コンサート情報 | Osaka Shion Wind Orchestra - 大阪市音楽団

第158回定期演奏会 | コンサート情報 | Osaka Shion Wind Orchestra - 大阪市音楽団

第7回京都定期演奏会 | コンサート情報 | Osaka Shion Wind Orchestra - 大阪市音楽団

第149回定期演奏会 | コンサート情報 | Osaka Shion Wind Orchestra - 大阪市音楽団

 

Symnapse「第4回演奏会 キンカン・コンプレックス @ 滝野川会館小ホール 2025/11/01」

現代音楽の演奏会を観てきました。

 

■曲目
01.夜のファンファーレ ~2本のトランペットのための(姫野七弦)
02.まねごと、ざれごと、おままごと ~ホルンとヒューマンビートボックスのための(湯地晃太郎)
03.想像以上の色とリズム ~不特定多数の金管楽器奏者のための(湯地晃太郎)
04.Chatter / Clatter(中村陽太)
05.組曲「ネオン+」(山根明季子)

 

Symnapseは「新・ラヴェル事件」での鮮烈なラヴェル編曲も記憶に新しい、若手作曲家たちのユニットによる団体。今回は金管アンサンブルにフォーカスした演奏会ということで、足を運んできました。

 

私はアカデミックに音楽を学んだわけでもないので、現代音楽的な文脈については語る言葉を持たないのですが、大変面白い作品群と思いました。

 

まず冒頭のファンファーレでは2名のトランペット奏者が向かい合ったり背を向けあったりしながら動機を演奏し、その動機が少しずつ変わっていくとともに向きだけでなく位置も移動。場外に出てのバンダ的音響から客席後方に出現してのサラウンド的効果など、工夫が凝らされていました。こういった作品は現地で聴いてこそであるとともに、たとえ現地に行っても別の場所で再演された場合はまったく違う体験になってしまう。ある意味現代美術のインストールの重要さと似ているのかなとも思わされました。

 

2曲目はホルンとビートボックスの作品。作曲家本人がビートボックスを担当していました。
私もそれなりにビートボックス界隈は動画などを視聴していた時期がありますが、プログラムノートに参考として記載されていたGene Shinozakiが得意とするリップベースとハミングの合わせ技やリップと喉でのひとりハモリなどが登場し面白く聴きました。曲のコンセプトとしてはホルンとビートボックスのマネしあいだったと思いますが、そこは少しホルンの音が小さ目のバランスになっていて、細部までは聞き取れなかったかなという印象です。とはいえ、ホルンは管楽器の中でも音色の自由度が高い(手でミュート度合いを操ったりできることにもよると思います)ので、こういったフィジカル的楽曲には合っていると思いました。ビートボックスを使用しつつも曲構成は自由で、ビルドアップやドロップ的な快感にもトライしてみてほしいという気持ちもあり。ビートボックスを取り入れる挑戦は応援したいです。

 

3曲目は金管五重奏形態。5つのセクションに分かれ、短い序奏的な動機の紹介にはじまり、チューバが演奏する印象的な3つのフレーズをきっかけに各奏者の演奏が変わっていくという仕組み。テリー・ライリー的に演奏のたびの偶然性を大切にしつつも、きっかけのフレーズのちりばめかたである程度はコントロールされているという面白い仕掛けだったかと思います。後半では奏者による対戦ゲーム風(じゃんけんに類似)の試みもあり、少し目まぐるしかったですが、そこも面白かったです。

 

4曲目はホルンとエレクトロニクスによる演奏。管楽器とエレクトロニクスという編成では私はサクソフォン奏者だったこともあり、JacobTVのGrab It!などが思い起こされます。あちらはビート的なコラージュに乗ったリズミカルな手法でしたが、こちらはエレクトロニクスはかなり音響的、アンビエント的な使われ方をしており、都会の雑踏を聴いているような不思議な感覚に陥りました。ここでもホルンの表現力が光っていて、この楽器の魅力をより感じましたね。

 

最後はこの日の中では比較的オーソドックスに近いスタイルの金管五重奏
曲名にも表れているようにきらびやかで多様な響きが印象的な作品でした。

 

普段あまり聴かないような音体験にあふれており、楽しい会でした。
特に、現代音楽とはいえアカデミック寄りというよりは大衆音楽の要素を強く意識した楽曲が並んでいたのは問題意識や挑戦心を強く感じ、頼もしさもありました。

 

いっぽうで、予定された曲が直前で変更になったり取りやめになったりと運営面ではなかなか課題も散見され、作品本体がよいだけに事務面が気になるのは惜しさも感じました。まだ第4回ですし、今後どんどん洗練されて吹奏楽界の波を作っていってくれたらと期待しています。

2025年10月に聴いた音楽

今月も早すぎるよ~。

 

King CrimsonLizard (50th Anniversary Edition)」
我々は何枚同じアルバムを買わなければいけないのか。アニバーサリーごとに新規ミックスやらお蔵出しマテリアルやらを追加してあの手この手で買わせてくるキングクリムゾンだが、今の50周年のターンでの目玉はデヴィッド・シングルトンによるエレメンタルミックス。本編のミックスがスティーブン・ウィルソンによる原曲を尊重したミックスであるのに対し、シングルトンはあまりにも大胆にお蔵出しマテリアルなどを混ぜたり削除したりして新しい見え方を引き出すことに成功。50年積み上げてきたからこその崩しがある意味快感であり、ファンとしてはやはり買うしかないのだった。

 

ザ・クロマニヨンズ「JAMBO JAPAN」
今作のクロマニヨンズは一味違う。なんかすごいやる気がある。いや、毎回アルバムは安心クオリティではあるのだけれど。久しぶりに真島がメインボーカルをとる曲があったり、やたらとメディア露出(しかもナタリーのようなネット記事や山田玲司youtubeなど、今の媒体)も多い。ミックスがモノラルからステレオに戻っているのも印象的だ。とにかく何か“違う”のである。
内容も素晴らしく、クロマニヨンズ以降の削ぎ落とされたパンクロックをベースにしつつも展開は自由で、それでいてメロディはどこをとっても印象に残る。個人的に特に好きなのは「顔ネズミ」で、マジでなんじゃそりゃと思いつつも聴いているとなんとなくわかった感が出てくるのも不思議。

 

NHK交響楽団「スッペ: 「軽騎兵」「詩人と農夫」序曲、オッフェンバック: 「パリの喜び」抜粋」
下野竜也が指揮を振った定期演奏会の録音。私も現地に聴きに行った。メインであるパリの喜びカラヤンも録音を残している有名曲で、天国と地獄のカンカンなど、オッフェンバックの有名なメロディをローザンタールという人が編曲したもの。成立の経緯からしてリミックス感があるからか、吹奏楽での抜粋演奏も人気があり、かつては吹奏楽コンクールの自由曲として取り上げられることも多かった。下野は日本を代表するオーケストラであるN響にポジションを持ちつつも広島ウインドをはじめ吹奏楽にも積極的な指揮者であり、個人的にも応援している指揮者の一人だ。ここでも下野らしい地に足のついた演奏で、こんなに明るいN響を聴くのも珍しい。

 

Acacia魔法少女魔女裁判 コンプリートオリジナルサウンドトラック」
クラウドファンディングで3000%超えという物凄い達成を経て制作されたADVゲーム。
PC用というフォーマットでありつつも若年層に特に広く受け入れられているように見え、販売も20万本を達成。
こう数字のことばかり書くのもどうなのという感じもあるのだが、この作品を語るにあたり作品そのものにとどまらずそのプロデュース力や全体としてのまとめる力に言及したくなるのは仕方ないかと。
クラファンの成功は期待の裏返しと思うが、実際にゲームの内容もたいへん素晴らしく、私もとてものめりこんでプレイすることができた。
これはそのサントラ盤で、主題歌であるSLAVE.V-V-Rの楽曲および劇中で使用された音楽が3枚組で収録されている。BGMの特徴としては「声」を使ったものが多いということと、ピアノ、ストリングス、ティンパニといったクラシカルな楽器が主軸ということ。通常、こういった声が入るBGMは主張が強くなりすぎてしまうことがあると思うのだが、本作では「フィクスマージ語」なる劇中言語を使用することでこれを回避。「何かを歌っているけどなんだかわからない」という絶妙な塩梅を演出することでBGMに耳を奪われすぎないようにできている。それでいてプレイ後にサントラを聞き直すと「あ、あのシーンで流れていたな」というものばかりで、作品世界に浸れてとてもよい。
このメーカーはもともとシナリオ制作を主軸にしていたところ、ゲーム制作に乗り出したという経緯のようで、ストーリーも凝っていて大変良かった。今後の作品にも期待。

 

Arturo Benedetti Michelangeli「ショパン・リサイタル」
ミケランジェリの名盤の再発。録音レパートリーはそんなに多くないピアニストだが残った正式録音はどれも評価が高い。中でもこのショパン作品は前半の軽いマズルカ集から後半のバラードに至るまで流れも含め素晴らしく、高音質での再発に伴いしっかり聴くことができた。個人的にもショパンのバラードに興味が出ていたということもあるがバラードの演奏が特に素晴らしく、ともすればとりとめなく難解な印象を残してしまうこの曲を自在に操り、最後まで耳を惹きつけ続ける魅力的な演奏だ。

tower.jp

 

Andrew Latimer「War Stories」
プログレバンド、CAMELの中心人物であるアンドリュー・ラティマーのソロ名義の新作。キャメルとしての来日が体調面の問題から中止になったことが記憶に新しいが、ソロ作品がリリースされる程度には元気と見え、その意味でも安心。ラティマーは泣きのギターが印象的なミュージシャンだが、フルートも演奏できたりと多彩であり、ソロとはいえかなりキャメル感の強い出来。メランコリックなしっとりした音楽性で1トラック40分強の大作で、コンセプトアルバムというかとても長いシングルというか、という感じ。個人的に好きなハーバーオブディアーズの頃の雰囲気もあり、このスタイルのプログレ好きにはたまらない作品。

andrewlatimer.bandcamp.com

第8回吹奏楽カフェに行った話

今回も行ってきました。
次の定期演奏会はかつてTKWOの常任指揮者だったダグラス・ボストックによるイギリスものプログラム。

 

www.tkwo.jp

 

ヴォーン・ウィリアムズホルストといった有名作曲家を取り上げつつも曲としてはマニアック寄りな「フローリッシュ」、「ハマースミス」を取り上げるというところにこだわりを感じる一方、近年にオオサカシオンで行われたホルスト特集やグレインジャー特集、ひいてはかつて東京佼成WOで3枚のアルバムが制作された「ベスト・オブ・ブリティッシュ」シリーズとの曲かぶりを避けたのでは?という見方もできそうな。

 

かつて東京佼成WOとボストックの組み合わせで取り上げられたのはおそらく「フローリッシュ」のみで、これは祝ぐファンファーレ的な意味合いがあるのであえて被せてきたのかもしれません。

 

今回のトークの中で特に印象的だったのは「ハマースミス」と「ウィリアム・バード組曲」の話。特にホルストのハマースミスについては地名であって鍛冶屋と言う意味ではない…というところまでは知っていたものの、当て字的にあてられた名前で本来の意味としては川の交わるところのような意味…というのは驚きました。作品が「ウォータージプシーの作者」に献呈されていることからその作品(二人の男と一人の女の恋物語のよう)への関連付けも感じられ、それらを踏まえて聴くと同時に2つの調性が感じられたりころころと場面が変わる構成にも納得感が出てくるから不思議なものです。こういった単一楽章でうつろってゆく作品は例えばシベリウス交響曲第7番などもそうだと思いますが、書き手としてはチャレンジングかつ相当面白いだろうなと思わされるところもあり、実際、ホルスト本人は演奏時の評判があまり良くなかったことをよそにかなり気に入っていた曲らしいですね。

 

ウィリアム・バード組曲はジェイコブがウィリアム・バードという作曲家の作品を吹奏楽に再構成したもので、メロディなどは大きな改変を行っていないのですが編曲というよりは作曲としてクレジットされるのが通例。これは中橋さんによるとあまりにもオーケストレーションが巧みなので、ということですが、解説と原曲との比較を踏まえて聴くと確かにこれはたいへん精緻な仕事であるなということがわかりました。

 

ウールフェンデンのファイアーダンスはこの回の曲の中でも特に音源が少ない曲。とはいえウールフェンデン自体はボストックもかつて「ガリマーフリー」を東京佼成WOで取り上げており、イギリスではかなり有名な作曲家のようです。タレント的な活躍や劇伴としての活躍が多いらしく、芥川也寸志のような…という例えはとてもわかりやすかったです。

 

リズム的な遊びも多く、個人的には違うテンポ感や調性感が同居する手法をイギリス作品は好んで用いているようにも感じるのですが、そういった精神はプログレッシブロックニューウェーブオブブリティッシュヘヴィメタルの流れとも呼応するようにも思いました。混ぜ込みつつも上品に成立させてくるのが面白いなと。

 

スパークの交響曲は「カラーシンフォニー」と名指されていますが、実際の色というよりは黄色は太陽光→スペクトル→うつろう色であったり、青色はブルーな雰囲気→ジャズ的であったりと、その色の単語から連想されるもの、ことをイメージした楽章と言えるようです。ドイツ的な交響曲はこういった表題を持たないことが多いのに対し、スパークはサバンナシンフォニーなどもそうでしたがイメージを強く取り入れているのも特徴的ですね。色からの連想…というと赤、黄、青、緑とくると個人的にはハリーポッターの寮の色なども想像してしまいます。

 

大井さんはイギリスものは苦手…といいつつも今回も色々なエピソード含む話を聴くことができ、たいへんよい時間でした。また、休憩中は先日の定期演奏会の録音が流れていましたが兼田のマーチやバラードなどはやはり大変素晴らしく、本当にどうにかして聴けるようにならないかな…。