1月7日に逝去された汐澤安彦さんが当初指揮を振る予定だった演奏会が、彼とゆかりの深い楽団、指揮者たちによる追悼演奏会に変更され開催されました。もとの予定曲から数曲変更され、東京吹奏楽団による演奏も追加。日本の吹奏楽の歴史をさかのぼりつつ汐澤さんの業績を振り返る演奏会となりました。
■曲目
[第1部:東京吹奏楽団]
01.主よ人の望みの喜びよ(J.S.バッハ/A.リード 編/汐澤安彦 監修)
指揮:松井慶太
02.序曲「バラの謝肉祭」(J.オリヴァドーティ)
指揮:船橋洋介
03.バンドのための民話(J.A.コーディル)
指揮:和田一樹
04.エルザの大聖堂への行列<歌劇「ローエングリン」より>(R.ワーグナー/L.カイリエ 編/汐澤安彦 監修)
指揮:佐々木新平
[第2部:東京佼成ウインドオーケストラ]
05.狂詩曲「スペイン」(E.シャブリエ/M.H.ハインズレー 編)
指揮:時任康文
06.バンドのための「ゴジラ」ファンタジー(伊福部昭/和田薫 編)
指揮:和田薫
[東京佼成ウインドオーケストラ&東京吹奏楽団]
07.交響詩「ローマの松」(O.レスピーギ/G.M.デュカー 編)
指揮:大井剛史
En.
08.行進曲「旧友」(C.タイケ/寺石圭 編)
指揮:大井剛史
09.マイ・ウェイ(J.ルヴォー、C.フランソワ/岩井直溥 編)
指揮:佐々木新平
10.アルヴァマー序曲(J.バーンズ)
指揮:汐澤安彦(映像)
[第1部:東京吹奏楽団]
01.主よ人の望みの喜びよ(J.S.バッハ/A.リード 編/汐澤安彦 監修)
指揮:松井慶太
バンダにトランペットとトロンボーン、さらにパイプオルガンまで加えた編成による演奏で、とても豪華な響きを堪能しました。この曲のメインメロディは冒頭からある分散和音的な三連符と思っていたのですが、ここではバンダの効果もあり金管楽器が受け持つゆったりとした和音によるメロディが強調され、より多層的な響きとして鳴っていたように思います。演奏後は中橋愛生さんの司会により各指揮者からコメントをもらっていく形での進行。広上淳一さんからのビデオメッセージもありました。松井さんは汐澤さんに教えてもらった際の想い出を披露。最初のレッスンで貰った指揮棒で本日の指揮を行ったとの事でした。
02.序曲「バラの謝肉祭」(J.オリヴァドーティ)
指揮:船橋洋介
かつて汐澤さんが東京吹奏楽団とリリースした「温故知新」というアルバムにも収録されていましたが、まさに古き良き名曲という位置づけの曲。あらためて聴くと場面ごとの展開がはっきりしていて面白く、教育的という面でも人気が出たことが頷ける良い曲と感じました。演奏はオーソドックスながら最後は燃え上がるような盛り上がりで印象的。船橋さんはチューバ奏者として吹奏楽の指導を受けた際のエピソードを披露し、指揮者としてだけでなく教育者としての汐澤さんの一面を感じさせてくれました。
03.バンドのための民話(J.A.コーディル)
指揮:和田一樹
これも昔からの定番曲。歌わせつつも快速で飛ばしていく演奏に汐澤イズムを感じました。和田さんの披露したエピソードも面白く、一曲目の指揮をした松井さんには後輩としてアドバイスを受けたという話や、汐澤さんいわく指揮棒の先には宇宙があるという思想的な話も。
04.エルザの大聖堂への行列<歌劇「ローエングリン」より>(R.ワーグナー/L.カイリエ 編/汐澤安彦 監修)
指揮:佐々木新平
原曲とは異なる壮大なフィナーレが付け足され吹奏楽で大人気となった曲。ゆったりしたメロディが繰り返されつつ盛り上がり、クライマックスを演出します。佐々木さんの指揮はすっきりと進みつつ総奏ではたっぷりというメリハリが効いた演奏で心地よく聴きました。
[第2部:東京佼成ウインドオーケストラ]
05.狂詩曲「スペイン」(E.シャブリエ/M.H.ハインズレー 編)
指揮:時任康文
スペイン風の楽しい曲想で、かつては吹奏楽コンクールなどでもよく取り上げられた曲。時任さんの指揮はメリハリと鮮やかさといった感じで、綺麗に整頓しつつ煽るところは煽りまくり、特に後半の畳み掛けなど圧倒的でした。汐澤さんからは「動きすぎ」と注意されたこともある、というエピソードも。
06.バンドのための「ゴジラ」ファンタジー(伊福部昭/和田薫 編)
指揮:和田薫
「犬夜叉」などの作曲家として有名な和田さんですが、大学時代は汐澤さんに指揮も習っていたとのこと。伊福部さんと汐澤さん双方と交流が深く、まさに本家というべき演奏でした。全体的に快速で、東京佼成WOから切れ味鋭いサウンドを引き出しており爽快でした。トークでは課題曲である「吹奏楽のための土俗的舞曲」に関するエピソードもありました。
[東京佼成ウインドオーケストラ&東京吹奏楽団]
07.交響詩「ローマの松」(O.レスピーギ/G.M.デュカー 編)
指揮:大井剛史
本編最後は合同演奏。大学の吹奏楽団など大編成でも振ってきた汐澤さんのエッセンスをプロ吹奏楽団としてやるとこうなるという豪華絢爛な演奏で、本間さんのトランペットをはじめとした各楽器のソロの素晴らしさ、バンダの金管の輝かしさ、そして強烈ながらも上品なフォルテシモに凄味を見ました。クラリネットからサクソフォンにソロが受け継がれるシーンなど、両団のコンサートマスターの夢の共演といった趣で感動的でした。
アンコールではまず大井さんの指揮で「旧友」。オーソドックスながらもリズムを強調してマーチらしい潔い演奏。続いて佐々木さんの指揮で「マイ・ウェイ」。この2曲はもともと今回の演奏会のアンコールとして汐澤さんが用意されていたものとのこと。打ち合わせの際に汐澤さんは「楽しい演奏会にしたい」と仰っていたとのことで、なるほど暖かくも楽しい気分にさせてもらえました。
そして最後はもちろんアルヴァマー序曲、なのですが、指揮台の場所には4面のモニターが。なんと汐澤さんの生前の指揮映像を投影し、それに合わせて演奏するという「天国からのリモート指揮」方式でのアンコールとなりました。
さすがに演奏は大変そうではあり、特にオーケストラ側がためたくなるところを汐澤さんはあんがい快速で飛ばしたりする部分などでは、やはり指揮は双方向なのだなあと感じたりもしました。しかし、そこはさすが汐澤さんゆかりのメンバーといったところで、合わせにいきつつも感動的なクライマックスまで一気呵成に聴かせる演奏はブラボーの一言でした。
演奏会じたいは汐澤さんを偲ぶというものではありましたが、演奏された曲たちのポジティブさ、楽しさにあらためて触れ、とてもあたたかい気持ちになることができる会でした。演奏会の開催にあらためて感謝するとともに、汐澤さんの遺した録音を今後も聴いていきたいと思います。