トルヴェールの音楽は「邦楽」だ。
それは選曲スタイルもそうだが、演奏の方向性によるところが大きい。
トルヴェールが得意とするメドレーものシリーズに特にそれが強く表れていると思う。
今回でいうなら「ナポリ!ナポリ!ナポリ!」である。19分の大曲だが、おそらく一般リスナーに一番訴えるのはこの曲のはずだ。
サンタルチアやオー・ソレ・ミオなど、イタリアの有名な旋律をフニクリ・フニクラでシェイクしたようなこの楽曲。
つまりはこの団体は「クラシックの室内楽」をやろう、だなんて思っていないだろうということなのだ。
われわれ日本人がイメージする「イタリアっぽさ」が存分に詰まったこの曲は、まさにナポリタンとでも言おうか、「本物ではないがゆえの美味しさ」であふれている。
昨今の「本物志向」のクラシックシーンとは逆行する形だが、そこをど真ん中で突っ切る様はその実力と自負を感じさせる。
もちろん「本物」の演奏ができないわけではないのだ。
長生淳による協奏曲の室内楽アレンジ版「Prime-Climb-Drive」ではこれでもかという程の技巧が堪能できる。
また、アンサンブル定番曲である「グラーヴェとプレスト」「民謡風ロンドの主題による序奏と変奏」の新録音も嬉しい。
この2曲が収録された昔のアルバムは長らく廃盤扱いとなっていたのだ。
そしてなんといっても佐橋俊彦の新曲「With You」だろう。
震災を受けて書かれた作品というこの楽曲は、穏やかでやさしいメロディが胸を打つ。
各々がソロで鳴らしてきたこのメンバーたちの歌心は絶品のひとこと。
最後に、忘れてはならないのが録音バランスの良さ。
いつもに増してピアノがよく聴こえ、合奏体としての一体感をより強く感じさせる。
トルヴェールはまだまだ現役だ。