東京佼成ウインドオーケストラ「New Sounds In Brass 2024」

2020年を最後に停止していたNSBの復活作がリリースされました。
これまでとは異なり、演奏団体である東京佼成ウインドオーケストラ(以下、TKWO)が主体となってクラウドファンディングによる資金調達を行って制作されたもの。

 

 

NSBはその性質として、「聴いて楽しむ」以上に「演奏して楽しむ」ための企画で、管楽器に慣れてきた中級者の合奏体が少し背伸びをしてポップスらしい語法を学びながら楽しめるというシリーズだと思っています。なので、今回はアレンジメントや演奏者目線に若干寄った紹介をしたいと思います。

 

■曲目
01.Welcome to the Tokyo III Jazz Club
02.ディズニー・メドレー・リターンズ
03.誰も寝てはならぬトゥーランドット」より
04.Tomorrow ~「生きもの地球紀行」エンディングテーマ~
05.ジャパニーズ・グラフィティXXII シティ-・ポップ・メドレー
06.YOASOBIメドレー
07.SPY×FAMILYメドレー
08.マンボ・メドレー
09.アフリカン・シンフォニー2024

 

いつものニューサウンズ通り、エリック・ミヤシロをはじめとしたゲスト陣に加え、TKWOの各メンバーがソロをとる形。ドラム、ベース、ギターという基盤にゲストを起用していることに加え、発音などもかなり徹底してあるため吹奏楽編成でありながら相当タイトなサウンドになっていて、心地よく聴けるCDに仕上がっています。

 

以下、曲ごとの感想。

 

01.Welcome to the Tokyo III Jazz Club (編曲:挾間美帆/天野正道)
エヴァンゲリオンのジャズアレンジアルバム「THE WORLD! EVANGELION JAZZ NIGHT =THE TOKYO III JAZZ CLUB=」からの選曲。そちらも聴いてみましたが、基本的にはほぼ構成そのまま持ってきた形です。序奏に続く高速ビートの上で繰り広げられるソロバトルはアルトサックス、ミュートトランペット、トランペット、アルトサックスの順。さらにサックスセクションによる高難度のソリおよびその後のフィルは決まればかなり効果的。全体的に「ちょっと背伸び」どころではない難易度ですが、アルバムの幕開けとしてふさわしく、聴く分にはたいへん楽しい曲です。

 

02.ディズニー・メドレー・リターンズ (編曲:星出尚志)
「小さな世界」「ハイ・ホー」「ララルー」「いつか王子様が」「ミッキーマウスマーチ」「カラー・オブ・ザ・ウィンド」「美女と野獣」のメドレー。いずれも有名曲であり、難易度的にも取り組みやすそう。メロディも各楽器に配置されていたり、ソロもトロンボーンオーボエ、トランペットトロンボーンの掛け合い、テナーサックス、トランペットと多数。楽器紹介的にも使うことができ、特に部活などの現場で活躍しそうなアレンジになっています。ワルツなどいろいろなスタイルに取り組めるのもポイント。

 

03.誰も寝てはならぬトゥーランドット」より (編曲:三浦秀秋)
NSBでたまにある「クラシック名曲アレンジ」もの。ブックレットによるとEDMスタイルとありますが、確かに4つ打ちやビルドアップ、ドロップといった構成、原曲をフレーズごとに分解してリフレインとしてちりばめるなどの工夫が見られます。中でもなるほどと思ったのがサイドチェインの再現の仕方で、本来はキックをトリガーにコンプレッサーなどのかかり具合を自動で行うことで和音の音量が裏拍に強調されて聴こえてくる手法ですが、吹奏楽というアコースティックではそこは単純化して裏打ちとして表現。この楽譜をベースにリズムマシンやサブベースを足してさらにEDM感を増しても面白そうかも、とか思ってしまいました。ソロもオーボエやミュートトランペット、アルトサックス、トランペットにあり、腕の見せ所という感じです。それにしてもエリックの突き抜けるようなハイトーンはやはり強いですね…。どう取り組むかが難しい曲ではあると思いますが、EDMのトラックメイクを理解している楽団による演奏がぜひ聞いてみたい曲です。

 

04.Tomorrow ~「生きもの地球紀行」エンディングテーマ~ (編曲:鈴木英史)
合唱としても演奏されるTomorrow。シンフォニックかつ演奏しやすい編曲の鈴木英史らしい綺麗なサウンド。アルトサックスのソロにはじまりメロディが各楽器に受け継がれてゆく様がとにかく自然かつ美しく聴くことができます。アルバムでは吹奏楽のみの演奏ですが、楽譜上では合唱パートも含まれ、合唱と吹奏楽としての演奏も可能のようです。吹奏楽が小編成でも演奏できる構成とのことなので、団員を合唱と吹奏楽に分けてみるとか、部活どうしのコラボレーションといった用途でも演奏できそうですね。

 

05.ジャパニーズ・グラフィティXXII シティ-・ポップ・メドレー (編曲:金山徹)
「SPARKLE」「プラスティック・ラヴ」「君は天然色」「フライディ・チャイナタウン」「真夜中のドア~stay with me」といったシティポップ楽曲のメドレー。70年代~80年代のヒット曲で、最近のシティポップ再評価を受けての収録とのこと。近年はシティポップを受け継いだ新しいバンド(ceroなど)の台頭も著しく、ルーツを知るという意味でも取り組む意義のあるメドレーになっていると思います。とはいえ、吹奏楽の明瞭な発音であの雰囲気を再現するのはさすがに難しく、メロディや和音のオシャレさを楽しむというのがメインの味わい方になりそうですね。基本的にはメロディはセクションごとに受け渡され、ソロは少な目でサックスなどに数か所。中でも「君は天然色」のサビをホルンなど中低音に受け持たせたのはなかなかグッときました。

 

06.YOASOBIメドレー (編曲:高橋宏樹)
「怪物」「祝福」「アイドル」「群青」「夜に駆ける」のメドレー。今や覇権アニメ主題歌請負人という風格のあるYOASOBIの初期~最新曲までを取り入れたメドレーです。もともと既存のJ-Popのスタイルに乗っていない(A,B,サビという構成に必ずしも則らない)ロック由来のチャレンジングさが魅力の彼らの楽曲をどのように料理してくるのか期待していましたが、そこはさすがのもので、各楽曲の印象的な部分をうまくつなぎ合わせつつも統一感のある見事な仕上がりに。吹奏楽というパレットにトランスされても原曲のイメージとの違和感が出ないのはかなり凄いのでは。個人的には特に「祝福」~「アイドル」のパートは胸が熱くなりました。目立つソロなどはほぼありませんが、全体的にエレキギターが重要な役割を果たしており、カッティングがうまい人がいる楽団におすすめ。

 

07.SPY×FAMILYメドレー (編曲:鈴木瑛子)
「STRIX」「Crisis of my home」「Gorgeous step」「Very Elegant」「Bondman」「クラクラ」のメドレー。大人気漫画を原作にしたアニメ「SPY×FAMILY」からサントラ曲およびOP曲が順番に登場します。スパイものの王道的なサウンドが楽しめる作品で、ちょっと昔だとMr.インクレディブルなどの系譜と言えるでしょうか。アルトサックスやトランペットのソロがあったり、サックスセクションによるおどけたアンサンブル的なパートがあったりと仕掛けもいろいろでパズル的な演奏の感触が楽しめそうです。バリトンサックスやファゴットといった木管低音に印象的なソロがあるのもポイント。様々な場面を描き分ける必要があるのでドラマーの腕の見せ所。

 

08.マンボ・メドレー (編曲:天野正道)
「マンボNo.5」「マイアミ・ビーチ・ルンバ」「マンボNo.8」のメドレー。吹奏楽ポップスといったらラテン系は外せませんね。いずれも一度は聴いたことのある陽気なメロディとリズム。掛け声パートが多く含まれ、打楽器も大活躍。クラリネットやフルート、トランペットの長いソロもあります。CDでの演奏はかなり大人な表現で、適度に力を抜いたリラックスしたリズムが楽曲の魅力を引き出しています。こういう曲で落ち着いた演奏ができるかというのもけっこう演奏側としてはチャレンジングなのではないでしょうか。つい速くしたり熱くしたりをやってみたくなってしまうので。後半は打楽器主導で盛り上がっていきますが、ここで管楽器がビートにぴったり合わせられるかでかなり印象が変わってきそうです。

 

09.アフリカン・シンフォニー2024 (編曲:三浦秀秋)
初期NSBでも取り上げられ、たいへん多く演奏されてきた楽曲ですが、新しい解釈でのアレンジとなります。冒頭にアフリカの大地を思わせる静かなイントロがあったり、盛り上がりの波が巧みに設定されていたりと全体的にシンフォニックかつドラマチックに仕上がっており、前アレンジが音の塊が向かってくる感じだとすると今回は多層的なサウンドが楽しめるという感じ。クラシック曲を取り上げたあとに演奏しても違和感なく溶け込むことができるなど、また違った演奏機会として取り組めそうです。

 

復活作として満足できる充実した内容だと思います。

5/7にはこれらの楽曲を取り上げるコンサートがあり、配信もされるのでCD一般発売前にこれらを聴いてみたいという方も、ぜひ視聴してみては。

 

www.tkwo.jp

 

[5/1 追記]

一般販売も5/7より受け付けるようです。ぜひに。

tkwo.stores.jp