東京藝大ウィンドオーケストラ「第96回定期演奏会 @ 奏楽堂 2023/11/18」

01.ウインド・アンサンブルのためのシャコンヌ(2017年版)(J.S.バッハ / 編曲:伊藤康英)
02.大フーガ 変ロ長調 作品133(L.v.ベートーヴェン / 編曲:南聡)
03.リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲(O.レスピーギ / 編曲:伊藤康英)
04.組曲シバの女王ベルキス」(O.レスピーギ / 編曲:木村吉宏)

 

前回に引き続き、今回も聴きに行ってきました。
第95回ではマスランカの交響曲をはじめとした吹奏楽のための楽曲でしたが、今回はすべて編曲作品。
とは言いつつも伊藤氏、南氏といった個性、思想を注入するタイプの編曲(トランスクリプションというよりアレンジメント寄り)が多かったこともあり、大変充実した聴体験となりました。

 

冒頭のシャコンヌはよい演奏で、吹奏楽を知り尽くした伊藤ならではの管楽アンサンブルの積み方が光っていました。特に響きが薄い箇所が印象的で、打楽器、木管金管が弱音の中でレイヤーのように多層的に重なるサウンドは実演で聴いてこそでしょう。中間部の印象的なメロディに入る前の息の長いクレッシェンドもよく効いていましたし、その後のクラリネットアンサンブルでのメロディもたいへん美しかったです。

 

南聡編の大フーガはたいへんな難曲。2つの動機が同時に走るフーガで、それだけでも聴いていて頭がこんがらがりそうになるところですが、その動機自体もシンコペーションを含んだかなり複雑なもので、これは合奏体として演奏するのは相当大変なはず。さすがに演奏にも特に前半で綱渡り的なスリルが感じられましたが、大井氏の明晰な指揮もあり聴き応えのある演奏に仕上がっていました。

 

リュートのための古風な舞曲とアリアは小さい編成での繊細な響きを活かしつつ、大井氏の得意とする活き活きとした舞曲を楽しめました。演奏も若さあふれる素直なもので好感触。とくに「宮廷のアリア」、「パッサカリア」のルネッサンス的なリズミカルなパートは心地よかったです。ここでも伊藤の編曲は素晴らしく、原曲の弦楽アンサンブル的な響きを活かしたところもあり、ガブリエリ的な金管アンサンブルの匂いを感じさせる歯切れのよいパートもありでかなり好きな方向性でした。この版で録音物が出ると嬉しいですね。

 

シバの女王ベルキスは熱演で、レスピーギの本来の構成に沿って戦いの踊りを後半に配置。「ソロモンの夢」と「夜明けのベルキスの踊り」では各ソロの気合いの入った演奏を楽しむことができました。「戦いの踊り」からは常にフルスロットルという感じで、前半の印象からだとここまでエネルギッシュに振り切ってくるとは思わなかったのでいい驚きでした。クラリネットの鬼気迫るソロに導かれてのホルンの高速ダブルタンギングもばっちり決まっていましたし、その後のトランペットとの掛け合いもお互い譲らずのバトルが楽しめました。音量調整でメロディを浮きだたせるというよりはお互いが主張を強く出すことでどちらも聴こえるというかなりパワー的バランスでなかなか聴けないものを聴けたなという感じ。間髪を入れずに「狂宴の踊り」に入り、こちらも常に全開。とにかくテンポ設定が速い!ここまで攻められるのはある意味若さならではでしょうか。バンダのソロやトランペットセクションも気合十分で、熱気あふれるよい演奏でした。やはりこの曲はこれくらいテンション高くやってもらえると気持ちがよいですね。

 

全体的に編曲作品と言いつつも吹奏楽の美味しいところが十分感じられた楽しい演奏会でした。後半ではブラボーも飛んでいてコンサートの感じも以前のように戻ってきていたのかなと感じましたね。