上野耕平「アドルフに告ぐ」

満を持して、という表現が相応しい。
日本のクラシカルサクソフォン界の革命児、須川展也の正統後継者とも言える上野耕平。
なんとまだ22歳だとか。
2011年日本管打楽器コンクールにて史上最年少で優勝し、その後も精力的な活動を続けている彼の、1stアルバムである。

曲目はまさに王道といったもので、今やサクソフォン奏者の登竜門的な楽曲となった吉松隆の「ファジーバード・ソナタ」、サクソフォンレパートリーのスタンダード中のスタンダードである「プロヴァンスの風景」とクレストンの「ソナタ」に、休憩的な色合いのリードの「バラード」と、サクソフォン黎明期に書かれたドゥメルスマンの「ファンタジー」。

まさにサクソフォンの歴史を総括するような選曲となっており、アルバムタイトル「アドルフに告ぐ」に恥じない内容といえるだろう。
ちなみにこのタイトル、つい手塚治虫を想起してしまうが当然ながらサクソフォンの発明者、アドルフ・サックスを指す。

聴きどころはやはり「ファジーバード」だろう。
作曲当時は演奏不可能とまで言われた楽曲だが、今や世界中のサクソフォニストがこれを演奏している。
アドルフの時代から奏者も楽器も飛躍的な進化を遂げた証のようなトラックに仕上がっている。

上野の演奏は軽やかで、技術的な困難さを微塵も感じさせない。
音色的には師である須川を踏襲しつつも、音楽表現においてはより現代の感覚を反映させたものになっているようだ。

まずは名刺代わりという意味合いが強いこのアルバムだが、果たして彼はこれからどのような方向に進んでゆくのだろうか。注目である。