東京佼成ウインドオーケストラ「大井剛史常任指揮者就任記念演奏会」

東京佼成ウインドオーケストラの大井剛史常任指揮者就任記念演奏会を観てきました。

 

大井氏は10年間正指揮者として東京佼成WOを振ってきており、誠実な音楽づくりと高解像度なサウンドで名録音も多数作ってきました。

今回から常任指揮者ということで、かつてのフレデリック・フェネルやダグラス・ボストックと同等のポストに就いたことになります。同時にTKWOには学芸員として作曲家の中橋愛生氏も着任し、より盤石かつ挑戦的な体制と言えるでしょう。

 

■曲目
01.セレブレイション(P.スパーク)
02.2つのコラール前奏曲(J.ブラームス/R.ギュンター編)
  一輪のばらは咲きて(作品122-8)
  おお、汝正しくして善なる神よ(作品122-7)
03.秘儀 IX「アスラ」(⻄村 朗)
04.交響曲第2番(D.マスランカ)
En.
05.ウェディング・ダンス(J.プレス/H.N.ジョンストン、F.フェネル編)

 

今回もサポーターズクラブ特典でゲネプロを見学しました。見学できたのは前半プログラム。
セレブレイションでのバンダの位置の調整や飽和しないようなサウンドへの意識の確認、ブラームスでの響きの確認とアスラでのアンサンブルが難しいポイントの確認…と、たっぷりプロの仕事を見ることができました。中でもアスラでは団員から確認したいポイントやバランスについての提案もあり、双方向での音作りがなされていることにたいへん感銘を受けました。

 

少し休憩して本番へ。
オペラシティは演奏者と観客の距離が近く良く響くホールというイメージで、バルコニー席も含めなかなかの埋まりっぷりでした。

 

セレブレイションはスパークらしい明るい曲。分散和音の動機が顔を出しつつ進行し、最後はお得意のメロディアスに疾走する展開へ。オフステージでトランペットのファンファーレがあるのですが、今回は舞台裏で演奏されました。各所にソロが配置され、団員の技量や音色を堪能できる魅力的な楽曲でした。タイミング早めなブラボーも飛んでいましたね。

 

ブラームスのコラール前奏曲は事前に吹奏楽カフェで経緯などを聞いていたこともありさらに面白く聴けたように思います。前後の曲とはがらっと変わり小編成でアンサンブル的な味わい。オペラシティはよく響くので小さい音でもよく響きます。後ろに配置されたパイプオルガンから出てきているかのような綺麗な終結部の和音が特に印象的でした。

 

アスラはたいへんな爆演かつ名演だったと言えるでしょう。いくつかのパートに分かれ、それぞれガラッと異なる趣の儀式的な音響で、各パートの後半で特にティンパニが重要な役割を持ちます。前半の静かな緊張感を切り裂くティンパニから、後半の全体の中でアクセントをつけるティンパニまで。まさに名人芸といったところでしょうか。合奏体ももちろん素晴らしく、特徴的な打楽器群や細かい音符のパズルのような組み合わせ、息のあったテンポ変化に舌を巻きました。最後の一撃の決めもばっちり決まり、圧巻でした。

 

マスランカの交響曲も熱演。一楽章冒頭から殺人的な音域が頻発する困難な楽曲ですが、気合の入った演奏でした。あらためて実演で接するとティンパニコントラバスの不在もあって、通常の吹奏楽らしい厚いサウンドとは全く異なる、薄く繊細な響きがあらわになるのがよくわかり、その面でも大変そうな曲です。二楽章の冒頭はサクソフォンアンサンブルから開始しますが、あらかじめ聴いていた他の団体の録音に比べアルト以下の内声パートがしっかりと聞こえるバランスになっており、絡み合いの妙味が味わえました。最後の静かな打楽器のあとはたっぷりの静寂をとって三楽章へ。早いテンポで15分近くを駆け抜けるスタミナが必要な楽章ですが、リズム遊びの部分などを浮立させつつのメリハリをきかせたよい演奏だったと思います。終わり方も難しいポイントですが、見事にテンションを上げて最後まで持っていきました。

 

静かなところでくしゃみが止まらない悪夢を見た…という冗談をはさみながらの常任指揮者への就任スピーチを経てアンコールは「ウェディング・ダンス」。フェネルもよく取り上げた曲ですね。短いながらも各パートの見せ場があり、楽しく終演となりました。

 

今後の定期演奏会への意欲にあふれた、たいへん充実した演奏会だったと思います。月末の定期も楽しみです。

 

なお、「アスラ」は初演団体の演奏が動画サイトで視聴可能なのでぜひ。凄い曲です。