People In The Box「Kodomo Rengou」

フルアルバムとしては2014年の「Wall,Window」から3年ぶりのPeopleのアルバムが発売されました。

 

Kodomo Rengou

Kodomo Rengou

 

 

個人的にPeopleはいくつかの時期に分けてとらえています。

 


「Rabbit Hole」
「Flog Queen
 この時点ですでに構成の面白さや綺麗なメロディ、ポエトリーリーディングに轟音とクリーントーンの対比といった個性は確立されていたものの、楽曲それぞれは独立しており、アルバムとしての統一感はそこまでありませんでした。

 


「Bird Hotel
「Ghost Apple
「Sky Mouth」
「Familly Record」
「Lovely Taboos」
 メンバーも固定し、アルバムごとに確固たる世界観を構築していた時期。楽曲間が密接に絡み合い、まるで長大な組曲を聴くような感覚で一枚が構成されていました。楽曲自体の構築度もより高まり、一秒たりとも気を抜ける瞬間のない濃密な音楽が並びます。その方向性は「笛吹き男」でひとつの頂点に達したと思います。

 


Citizen Soul」
「Ave Materia」
「Wether Report」
 東日本大震災を受けて生み出された作品群。それまでの作品がどこか内向的だったのに対し、外を向いた目線の歌詞が多く並びます。楽曲についてもそれまでの「極限まで研ぎ澄ませる」という方向から、あえて遊びを設けて自然体な音楽を模索している様子が感じられ、全体としてあたたかみのある作品たちです。同時にそれまでのスリーピースという編成にとらわれない実験も行われており、「Wether Report」ではノイズや鍵盤の大胆な導入も観られました。

 


「聖者たち」
「Wall,Window」
Calm Society」
「Talky Organs」
 鍵盤楽器を本格的に導入するようになってきた時期。楽曲としては遊びを確保しつつも詰める所は詰めるといった感じ。「劇場編」と呼ばれるライブでアコースティックセットを定期的にやってきた彼らですが、そちらの方向を強く出した楽曲が多いかなという印象で、「海はセメント」や「月」などハッとさせられるような曲も多いのですが、どこか引っかかりきらないという印象も。

 


「Things Discovered」
 メンバー選曲のベストと同時に新曲、再録を行いバンドの10周年を飾った企画盤。トリビュートでの「エンジェルダスト」もこのくくりのイメージ。過去の楽曲を振り返ったことがプラスに影響していると思われる祝祭感あふれるよい企画でした。

 

そして今回の「Kodomo Rengou」。
これも⑤の中に入るかと思いますが、一聴して驚いたのは、ここには①~⑤までのすべてのPeopleを感じたことです。

 

特に②から③で一旦は手放した、あるいは距離をおいたと認識していた「構築」が復活していること。その上で、今まで積み上げてきた音楽性の延長線上で鳴っていることに感動させられました。このバンドの数ある武器が、きちんと強みとして自覚を持って効果的に用いられ、組み合わさっているのは「お子様ランチ」のような楽しさを与えてくれるのです。

 

「報いの一日」では「エンジェルダスト」で聴けたような印象的なギターサウンドとシンプルな歌メロ、そして「Ghost Apple」でよく聴いたキラキラとしたギターがだんだんと多層的に重なり、日差しの暖かさのようなオープニングを演出します。

 

「無限会社」では切れ味のよいカッティング、機械音のようなギターに「矛盾の境界」を思わせるリズミカルなパート。コーラスでVo波多野さんだけでなくBa福井さん、Dr山口さんの声がしっかり聴こえるところも今までと異なる箇所。中盤で大胆に切り込むキーボードも強い印象を残し、めまぐるしい展開と「紛い物」のサビに圧倒されます。

 

「町A」ではいきなりゴリゴリとしたベースに驚かされたかと思えば高らかに歌われる町の施設の数々。16分3個で分けられたフレーズが随所に登場し、独特の浮遊感を演出しています。ここでも中間部ではキーボードの見せ場があり、さらなるサビの高揚感を煽る心憎い展開。終盤で拍子が変わるのも自然で巧み。こういった箇所に「Familly Record」期を感じますね。

 

世界陸上」はピアノによる印象的なリフでスタート。楔を入れるように切り込むドラムとベースはさらっと見えて相当にテクニカル。ここでの歌はかなり器楽的。リズム楽器的に歌ったかと思えばメロディを奏でたりと自由なアンサンブルが癖になります。

 

「デヴィルズ&モンキーズ」の展開は圧巻。順番に登場したマテリアルが中盤でパレードのように回収されていくのは謎解きのような快感をもたらします。「Wether Report」で聴いたような民族風な弦の音色も心地よく、繰り返しの中で高揚していく音楽を堪能できました。

 

「動物になりたい」は去年のライブから披露されていた曲。クリーントーンなギターのリフに乗って美しいメロディが紡がれます。アルバムの中では比較的シンプルな楽曲ですが、その分ストレートに感情が伝わるようで、アルバム中間部でのよいアクセントになっています。

 

衝撃的なサウンドではじまる「泥棒」。ギターとベースのユニゾンリフに乗って不穏な歌詞が踊ります。「責任くん」「退屈ちゃん」といった強力なワードが並ぶ歌詞も攻撃力が高め。長めのギターソロも配置され、曲の不穏さをさらに増しています。ギターソロ明けから聴こえてくるギターのコード弾きやシンセっぽい音色も素敵。

 

「眼球都市」も去年のライブで披露されていた曲。一聴では聴き取れない歌詞とやけに音韻を踏んだサビが癖になります。視力1000.0なんて発想はなかなかできないですね。

 

しっとりしたピアノの「あのひとのいうことには」。終盤で歌だけになる箇所は効果抜群で、それまでの重厚な演奏がスッと消えることでより歌のメッセージが際立つつくりになっています。

 

複雑なリフの上でメロディが舞う「夜戦」。動き回るベースが印象的です。時計を模したかのようなギターや疾走するドラムも心地よいですね。盛り上がりが一段落したかと思うと一転してテンポダウン。ポエトリーリーディングの挿入に耳を奪われるとそのまま展開しつつエンディングへ。このへんも「Familly Record」での技法を感じます。

 

「かみさま」はMV曲。音数の少ないギターに代わってコード弾きで厚みを演出するベースによる横の広がりのあるサウンドが印象的。「おはよう おはよう」と繰り返すサビのホーリー感がとてつもなく、その後でドゥーミーと言えるほどの重厚なリフが繰り返されることで音に塗りつぶされる快楽も感じることができます。

 

「ぼくは正気」でエンディング。ここでは特にVo波多野さんの音楽性を強く感じました。音色やリズムのチョイスなどにソロ名義での音源やバンド以外での活動からのフィードバックを感じます。「沈黙」の再録が同様の方向性であったように。こういった一聴してシステマティックな演奏もできるのが彼らの魅力です。

 

全編通して、今までのPeople In The Boxをすべて活かした上で前進する、素晴らしいクオリティのアルバムでした。リリースツアーは6月とのこと。これは今から楽しみです。