東京佼成ウインドオーケストラ「吹奏楽燦選ライヴ/オリエント急行」

吹奏楽燦選ライヴ/オリエント急行

吹奏楽燦選ライヴ/オリエント急行

 

 

01.オリエント急行

02.ドラゴンの年 I.Toccata

03.ドラゴンの年 II.Interlude

04.ドラゴンの年 III.Finale

05.交響曲第1番 I.Andante espressivo - Allegro con brio - Andante

06.交響曲第1番 II.Alla marcia

07.交響曲第1番 III.Largo espressivo

08.交響曲第1番 IV.Allegro con fuoco - Andante - Allegro molto vivace

09.アルセナール

 

TKWO定期演奏会から選りすぐりのテイクを集めたアルバムがリリースされた。TKWOシエナWO、オオサカシオンWOと並んで日本のプロ吹奏楽団の代表格だ。

 

TKWOは堅実な印象のオーケストラで、硬派なオリジナル楽曲や管弦楽曲からのアレンジものも多く取り上げており、吹奏楽コンクール的な選曲からは一定の距離を置いている。近年の定期演奏会でもコリリアーノの交響曲を取り上げたり、ロシアからザンデルリンクを招いてのショスタコーヴィチであったりチェコからエリシュカを招いてのドヴォルザークなど、かなり本格的なアプローチに意欲的に取り組んでいる。

 

半面、その姿勢のシリアスさや演奏の優等生的な表現から、派手な吹奏楽を期待する向きからは地味目に見られることもあるのは確かだ。

しかし、今回はライブ盤をウリにしているということもあってかいわゆる「吹奏楽コンクール受け」しそうな楽曲が並んだ華やかなアルバムとなった。

 

オリエント急行」は作曲者本人による指揮でTKWOによる録音も存在し、いわゆる吹奏楽版の本家だ。今回は秋山和慶が振っており、鉄道の情景を描き切っている。録音もよく、唸るようなバスドラムは印象的だ。

 

「ドラゴンの年」は藤岡幸夫による指揮で、このアルバムの中でも特に熱量の高い演奏が繰り広げられている。ブラスバンド版のいわゆる「鼻血ドラゴン」の演奏が有名な楽曲であるが、ここでのTKWOも勝るとも劣らない快演を繰り広げている。特に各奏者の技量と歌心がよくわかる2楽章は感動的だ。難しいパッセージの応酬である3楽章でもアンサンブルの精緻さとテンションの高さを両立しており心地よく聴けた。

 

ジェイガーの「交響曲第1番」は正指揮者の大井剛史による演奏。大井はこの時のほかにもC.T.スミスの交響曲第1番、ジェイガーの交響曲第2番、バーンズの交響曲第3番などと交響曲と名指された作品を積極的に取り上げており、ここでも吹奏楽という枠を超えたクラシック音楽としてのスケールの大きな表現が楽しめる。ショスタコーヴィチなど過去の交響曲作曲家たちからの影響も色濃く感じる楽曲で、吹奏楽を活かした行進曲風の2楽章、華やかな4楽章はとても派手で爽快だ。TKWO3楽章のような落ち着いた部分でも驚異的な集中力を発揮しており、弱奏でも全くサウンドが揺るがないところが素晴らしい(こう書くと基本的なように見えるが、吹奏楽でこれを実現するのは非常に難易度が高い)。大井は以前TKWOがアレンジものを取り上げる意義について、管弦楽での名曲を楽団として経験することでそれらの文脈を吹奏楽オリジナル作品でも効率的に取り入れることができるという旨の発言をしていたと思うが、その取り組みが功を奏していると言えるだろう。

 

最後はアンコール的な配置で「アルセナール」。非常にどっしりとしたテンポ設定で楽曲自体が持つ響きの美しさを確認することができる。

 

選りすぐりだけありいずれも名演であり、楽曲に対する真摯な態度が伝わってくる素晴らしいアルバムだ。TKWOの定期は毎回このアルバムのような素敵な演奏が繰り広げられているので、機会があればぜひ足を運んでみてほしい。