東京藝大ウィンドオーケストラ「第95回定期演奏会 @ 奏楽堂 2023/07/12」

01.フランス組曲(D.ミヨー)
02.アーデンの森のロザリンド(A.リード)
03.ウェストポイント・コンチェルト(V.ネリベル)
04.秘儀V<エクリプス>(西村朗
05.交響曲第4番(D.マスランカ)
En.
06.サーカスの日々(K.キング)

 

良いものを聴いた!
東京藝大WOは高品質の吹奏楽CDを定期的にリリースしてくれるので好きな団体だったが、ついに実演を見に行くことができた。

 

というのも、目当てはメインであるマスランカの交響曲
もともとサクソフォンをかじっていた身としてはマスランカはかなり馴染みの深い作曲家で、交響曲第7番などは好きでよく聴いていた。

 

交響曲第4番はもともと2020年に指揮者の大井が「芸劇ウインド・オーケストラ・アカデミー」で取り上げようとしていた楽曲で、私もチケットを買っていたのだが、コロナ拡大に伴い中止となっていた。3年経ってやっと大井氏のマスランカを聴くことができたということで、感慨もひとしおだ。

 

前半は「フランス組曲」で幕開け。古典とでもいうべきレパートリーであるが、大学生というフレッシュ感を感じさせるさわやかな演奏。ホールの響きに耳を慣らすとともに心地よいオープニングだった。響きのバランスもよく、特にコントラバスがよく響いて聴こえたのが印象的だった。

 

「アーデンの森のロザリンド」はリード後期の名曲で、コンパクトながらも歌心にあふれる名曲。ここではやや快速なテンポ設定で揺らしも少な目、さっぱりした味付けでの演奏となった。けっこうためようと思えばいくらでもためられてしまう曲だけに、バランス感覚にはセンスのよさを感じた。

 

ネリベルの「ウェストポイント・コンチェルト」は今年日本初演されたばかりという珍しい曲。コンチェルトとは名付けてあるものの特定のソロ楽器が立ててあるというよりは各部でソロを配置しつつ合奏体としてのコンチェルトという「管弦楽のための協奏曲」的スタイル。ネリベルらしい動機の執拗な意識づけもありつつ、交響的断章などにくらべると圧は少な目。ただしその分ギミックありという感じでちょっと新しいネリベル像という感触もあった。大井氏はTKWOでもネリベルの珍しい曲を取り上げていたりしたのでネリベルには思い入れがあるのかもしれない。どこかで音源化してほしいものではある。

 

休憩をはさんでの「秘儀V」は圧倒的名演。
現代音楽的なテクニカルで複雑な響きを演奏しこなす技量もそうだが、曲のギミックとしての「祓い」的アクションが特によかった。動画サイトにあがっている高校生の演奏などは膝をはらうくらいだったが、さすが覚悟が決まっている藝大生といおうか、立ち上がって各々のアクションを存分に発揮していた。この表現は「子供の楽団だと照れがでてしまうし、大人の楽団だとわざとらしさが出てしまう」ことが予想されるので、音大生による演奏というのはひとつの最適解なのではなかろうか…と聴きながら感心してしまった。仮に音源化されてもこのインパクトは現地で視ないとわからないわけで、これだけでも足を運んだかいがあったというものだ。

 

目当ての「交響曲第4番」も素晴らしい演奏だった。
30分という吹奏楽としては比較的長い単一楽章の楽曲だが、ホルンソロにはじまりアンサンブル的な静かな場面とトゥッティの盛り上がりを繰り返しながら最後は息の長い、くどく感じるほどのフィナーレを迎える。マスランカの特徴であるバッハや教会音楽からの影響も強く、スミスの「ルイ・ブルジョワ」と同じ主題が核となっている。それにしても、実演で聴いてみるとマスランカの難しさを再認識する。特に合奏体が小さい音量で保っている中でピッコロトランペットでハイトーンを決めないといけない箇所などは手に汗握ったし(素晴らしかった)、アルトサクソフォンのやや低めの音域を用いたソロからはじまるサクソフォンセクションのパートなど、きっちり演奏効果を上げるには相当の技量が必要そうだ。その点、技術的にはさすがの安定感を感じさせつつも気合の入った(時に少し入りすぎた)ソロ群はいずれも感動的だったし、期待した通りのものが聴けたように思う。

 

アンコールはカール・キング。最後は大井氏がテンポを煽って高揚感のある終幕となった。大学という教育の場だからこそできる極めて濃い選曲はやはり魅力的であったし、また可能そうであれば足を運びたいと思わせられた。