今年も面白いアルバムばかりですね。
特に気に入った12枚を紹介します。
■BUCK-TICK「異空 -IZORA-」
■Extreme「Six」
■Haken「Fauna」
■kokeshi「冷刻」
■Liturgy「93696」
■People In The Box「Camera Obscura」
■クラムボン「添春編」
■INSOMNIUM「Anno 1696」
■YES「Mirror To The Sky」
■cali≠gari「16」
■Sound Horizon「絵馬に願ひを! (Full Edition)」
■花譜「狂想」
■BUCK-TICK「異空 -IZORA-」
前作「ABRACADABRA」は逃避を肯定する優しいアルバムだった。辛い世界に潰されないように時には逃げることも必要だという包容力と、それをぶっ飛ばす「ユリイカ」の痛快さが印象的だった。
その後、世界の分断がよりはっきりと表出し始めたときに彼らが新作で提示したのは「向き合うこと」の大切さのように見える。先行してベストアルバムに収録された「さよならシェルター」に顕著なように、ここにはあきらかにウクライナ・ロシアへの視線が存在する。
それについて語るだけで自動的に何らかのメッセージ性を帯びる現在において、それでも楽曲からはそこまで圧を感じないバランス感覚も見事だ。これは筋肉少女帯などにも感じることだが、状況を描写するに留め、メッセージとしては発しないというスタイルはより多くの人に素直に受け容れられやすいものになっているのではないだろうか。
音楽的には近作の流れを汲んでヘヴィで時にインダストリアルなビートロック。櫻井の演じるような歌唱は今作でも絶好調で、特に「Campanella 花束を君に」での子供と大人の歌い分けは特筆ものではないだろうか。シングル曲「太陽とイカロス」などがアルバム内で違った表情を見せる様も心地よい。
■Extreme「Six」
正直なところ、今まであんまりExtremeはハマっていなかった。ファンクメタルというジャンルを切り拓いた重要性は認めつつも、なんとなくチャラさに乗り切れないところがあった。
しかし今作は凄い。ファンクメタルらしさが減退しているからと言ってしまえばそれまでなのだが、彼らのQUEENフォロワーらしいシアトリカルな面も出ていると思うし、チューニングを下げたヌーノのヘヴィなギターサウンドも魅力的だ。
中でも特筆はやはり先行リリースされた「Rise」だろう。とにかくギターソロが凄い。長いし弾きまくりだし、聴きなれないようなテクニックもあり、これはアイコンになるソロだと思う。後半のディレイに聴こえるが実際はすべてピッキングとハンマリングしている箇所が特に圧巻で、彼がここまでドヤ感のあるソロをやってくるとは思っていなかった。
ヴァイ、イングヴェイ、ザック、トシンとのGENERATION AXEでの活動が大なり小なり影響しているのではないかと推察する。
ゲイリーのVocalも素晴らしく、ロックの美味しいところを改めて堪能できる名盤と思う。
■Haken「Fauna」
Dream Theaterの次世代のプログレメタルとして活躍が目覚ましい。しかし音の方向性としてはかなり違うベクトルを向いており、Hakenはリズムの組み合わせの妙による複雑性の演出が巧みだ。
例えるならDream Theater系列はリズムがシングルレイヤーであるのに対し、Hakenは多層的と言えばいいだろうか。それぞれの部分において、どちらのリズムで取るのが正しいのか掴みかねるパートが多いように感じる。もとのリズムがあってそれに遊びとしての別の拍子が組み合わせられるという成り立ちでなく、もともと拮抗した2つの拍子が同時に演奏されているような感触を受けるのだ。
これによって独特の浮遊感が発生し、新しい聴感覚が演出されているように感じる。それぞれの楽曲に動物が配置されていたりと今回のテーマは動物のようで、ジャケットも面白くてお気に入り。
難解でありながらも、何回も聴いて理解したくなる魅力にあふれたアルバムだ。
■kokeshi「冷刻」
ぱっと聴いて印象に残るのはやはり声だろう。DIR EN GREYを想起させるような色彩豊かな叫びはインパクト大だし、静と動のサウンドのコントラストもその印象を強化させる。
ジャケットからもわかるとおり、世界観は完全に和製ホラーといった趣で、幽霊や化物というよりは怪異という表現が似合うような、どろっとしたものを想像させる。
それでいながら演奏は実にモダンで、ブラックメタル的疾走を見せたかと思えばデスヴォイスお経が差し込まれたりと飽きさせない。ライブでも観たが演出も見事で、この濃い作品を再現し、さらにハイクオリティで提示できるのは恐れ入った。壁にお経のような文字が埋め尽くされるような照明演出もあり、これも言葉通り恐かった。
これだけシリアスにやっていながら活動では無料ライブをやってみたり、チェキを売ったりと柔軟なのも面白い。新しい潮流になっていってほしいものだ。
■Liturgy「93696」
ブラックメタルとクラシックの融合、というのがわかりやすい説明になるのだろうか。しかしそもそもブラックメタルはクラシックの影響も強く、Emperorなど大御所もストリングスの音色を多用したりシンフォニックな表現が使われたりしていた。ではどこが違うのかというと構成だ。
まず明確なビートがなく揺れ動くテンポ感の中で提示されるメロディであったり、有機的に絡み合う各パートの対位法的な扱い、そしてテーマメロディを器楽的に提示しながら展開させていく様子はあきらかに練り込まれ作曲されたものであり、なおかつメタル由来の激しさと荒っぽさが同居する。
フルート的な笛がメロディの輪郭を断片的に見せてみたり、かと思えば急に民族的ビートが電子ドラムで奏でられたりする一曲目からすでに刺激的であり、その密度感が2枚組の最後まで続く。正直疲れるが、これだけの練り込みと思想性を滲ませる音楽もそうそうなく、一聴の価値ありではなかろうか。
■People In The Box「Camera Obscura」
個人的にPeople In The Boxは知ったときにもっとも衝撃を受けたバンドの一つであり思い入れも強い。毎回アルバムをリリースするたびに新鮮なワクワクを感じさせてくれる特別なバンドだ。
彼らはKodomo Rengouからまた新たなモードに入っているなとは感じていたが、ここ数作の流れを汲みつつもさらに進化した快作に仕上がっている。スリーピースでありながらも技巧と構成の巧みさで色とりどりの表情を見せる濃密さで、それでいて9曲とするっと聴き通せるサイズ感も心憎い。本作はカセットテープでもリリースされ、そちらも聴いたがあっという間に折返しになって終わる。これはGhost Appleを聴いている感覚にも近く、ひとつの短編映画を観ているような感覚で楽しめるアルバムだと思う。
サウンド面での実験もいつもどおり面白く、公式YouTubeでレコーディング風景が公開されているのでそちらもおすすめだが、やはり彼らの持ち味としてするっと耳に入ってくる歌詞にも注目すべきだろう。ここでVocal波多野はくどいほどに韻を踏む。トラウマとツキノワグマで踏む人なんてはじめて見た。それでいながら言いたいことは全くぶれさせていないし、贈与と象よをかけてもなんとなくおしゃれに聴けてしまうのはさすがだ。この踏み方はどちらかというとラッパー的、あるいは洋楽的なのではなかろうか。ラップに乗せて踏むのではなくあくまで歌メロの範疇内でここまで踏むのはあまり他に例が思いつかず、新たな表現領域への拡がりを感じた。
さまざまな問題に目配せをしつつも問題提起に留めるバランス感も流石だ。多くの人に薦めたい。
■クラムボン「添春編」
久しぶりのクラムボンの新作だ。先日のライブにて一旦バンドとしての活動を休止し、新しいやり方を模索した後に復活するつもりだという宣言をしたクラムボンがそのライブで発表したアルバムとなる。
ここ数年の配信シングルリリースだった「夜見人知らず」「ウイスキーが、お好きでしょ」などに加え、「ピリオドとプレリュード」などの新曲を追加。全体としてアルバムタイトルが同音異義で示す通りの「総集編」、いったんのしめくくりというイメージを強く受ける内容だ。
それでいて楽曲はどれも未来に希望を見たようなきらびやかな印象があるのが嬉しい。ライブでも感じたことだが、いろいろなことを乗り越えてきたからこその、また、これからも乗り越えていきたいという圧倒的ポジティブなエネルギーを感じさせられた。
正直、私のような人間にはちょっと眩しすぎるなとも思うのだが、純粋に感動させてもらった。
■INSOMNIUM「Anno 1696」
プログレ的な要素も含むフィンランドのメロディックデスメタル。今までも高品質のアルバムを出してきたがここにきてさらにメロディアスでわかりやすい作品を提示してきた。
いわゆるメロデス的なクサメロではなく、映画音楽のような壮大に展開するギターメロディが良い。丁寧に盛り上がりを作ったあとの疾走など、ベテランならではの安心感のある構築力もさすがで、デスメタルというエクストリームな音楽にありながらリラックスして心地よく聴ける名盤だと思う。
所々に配置された女性コーラスによるホーリー感も特筆で、アコースティックギターにストリングスにコーラスという当にサウンドトラック的なサウンドを作ってからのブラストビートによる扇情的なサビやギターソロなど隅々までストーリーが行き渡っている。
■YES「Mirror To The Sky」
この世代のプログレバンドの中でも最も精力的に新作を制作しているのではないだろうか。前作「The Quest」がまだ記憶に新しい中での新作である。
YESはもともとメンバーの入れ替わりが多く、今はギタリストのスティーブ・ハウの音楽を実現させるバンドという側面が強い。リレイヤーなどのようなヒリヒリした感触を求める向きには少し物足りないのではないかとも感じるのだが、彼らのキャリアに裏付けされた壮大な世界観はなかなか現在の下の世代のバンドからは提示されづらいものであり貴重だ。夢想できた世代ならではという感じがする。
特にモダンなプログレバンドはいかに難解でメッセージ的であるか(そしてそれをサラッと聞かせるか)というテクニカルな面で評価されることが多く、実際にそれを達成している素晴らしいバンドも多数あるのだが、プログレの魅力として映画を見ているような(しかもドラマの少ないような作品を見ているような)ゆったりとした時間の流れを感じられるような大きなサウンド感も大切だと考えている人間としてはこういったYES的なアプローチもとても好きだ。
お気に入りは「Luninosity」。ゆったりとした時間の流れにメロディが染み渡ってゆく。
■cali≠gari「16」
ここにきてさらに最高傑作を更新していくcali≠gari。制作期間中のインタビューではメンバーそれぞれにおけるこのバンドの原点回帰を意識したということであるが、メンバーの加入時期のズレやそれぞれの認識の違いにより、ここ数年の中でもとくに雑多な印象のアルバムとなった。しかしもともとアルバムに「実験室」という名前の冠していたのが彼らであり、そう考えると必然の帰結のようにも思えてくる。
バンドとしての原点のみならず、メンバーそれぞれの音楽の原点にも光を当てたと思われる楽曲が多く、とくに桜井、石井がともに強く影響を受けたSOFT BALLETやBUCK-TICKといったビートロック、EBMの要素が強く出ている。
cali≠gari流のICONOCLASMとでもいうべき「切腹」ではベースのリフに導かれてあれよあれよという間に楽曲が組み上がってゆくし、「脱兎さん」ではラフィンノーズ的な勢いを感じさせるパンクを聴かせる。かと思えば「紫陽花の午後」ではCOALTER OF THE DEEPERSのように5弦ベースを活かしきった広いシューゲイザーサウンドを見せるし、「銀河鉄道の夜」ではシアトリカルに今までなかったような表情を引き出す。
極めつけはSOFT BALLETカバーの「Engaging Universe」。森岡賢が急逝したあとのライブでも取り上げていた楽曲だが、今回オリジナルアルバムに収録されるのは予想外だった。しかし聴いてみれば納得であり、先述したような先達からの影響を彼らなりに解釈し昇華するというスタイルがカバー曲というフォーマットだからこそより強く感じられる出来となっている。自分が聴くとして自然に聴けるものを目指したという奇をてらわない誠実なカバーであり、SOFT BALLETファンにも是非聴いてみて欲しいテイクだ。
■Sound Horizon「絵馬に願ひを! (Full Edition)」
本作はギミックを含んだBlu-ray作品であり、どちらかというとノベルゲーム的なモノである。私はまだ「全クリ」していないのだが、それでもここに取り上げるのをご容赦願いたい。
Sound Horizonはわかりづらい。いや、この言い方には語弊があるかもしれない。特に今回の作品は全編リリックビデオとでも言うような見た目であり、伝えることへの配慮は最大限なされている。なので、多少くどくなるが言い換えるなら「わかりやすいが、わかりやすく感じるようになるためには事前準備が必要だ」となるだろうか。
Revoの音楽はしばしば物語音楽と形容される。実際、楽曲群は長尺を使って多彩な展開を描き、大きなひとつの物語を構成するのでその認識は正しい。だが、彼の特徴がそこなのか?というのは少し疑問がある。私としては彼の音楽はプログラミングで言うところのオブジェクト指向であり、あらゆる要素が独立しつつもお互いを呼び出し合うというものだ。
今までの作品でもそうだった。例えばMoiraでは夜のシーンでElysionの「Stardust」を一瞬のぞかせることで、歌詞では触れなくても空に星がまたたいていることを示すなど、過去作品の引用がとにかく多く、それにより聴者の脳内で呼び出されるイメージを巧みに利用して音楽だけでは伝えきれない細かい情報を一気に解凍させる。
これはもともとゲーム的、ことに群像劇タイプのゲーム…街やパラノマサイトのような…だったのだ。そう考えると彼が今回このスタイルでやりたかったことも納得がいく。おそらく彼はもともとこういうことがやりたかったのではないか。
そしてそれはかなりのクオリティで達成できていると思う。同時に、映像がつくことで初心者でも基本となるストーリーはなぞることができ、楽しめるためにSound Horizon初心者にも本来はおすすめしたい内容だ。そう、本来は…というのは、その仕掛けのシステム開発によりソフトの価格がかなりのものになってしまっており、興味を持ったくらいのレベルでは手に取るのがかなり難しいことである…。
とはいえこの挑戦がコアなファンだけのものになるのはあまりに惜しい。もう少し開発費かかってしまうが、Steam版を作ってゲームとして売るとか、どうですかね…。
■花譜「狂想」
バーチャルシンガー花譜の3作目。ずっとタッグを組んでいたボーカロイドPのカンザキイオリが今作までで神椿を卒業となるため一区切りのアルバムとなる。
これまでの楽曲と連作になるようなものもありつつ、最近のライブで取り入れているようなダンスミュージック的要素が強く表出しているアルバムになっている。また、コーラスも印象的に取り入れられてきており、ライブを重ねたことによる現場を踏まえた構成を感じられた。
花譜の歌唱も今まで通り素晴らしい。独特な声質も魅力だが、感情を込めつつも音としての印象が一定からぶれないという特徴がある意味ではボーカロイド的であり、そこも楽曲にうまく合致して受容されてきたのではないかと思うのだが、その要素は今となってはCevioAIの可不が担っているところであり、もっと崩した表現も聴いてみたいところではある。
全体として集大成感のある仕上がりであり、たしかにここで区切りというのは得心のいくところだ。ジュブナイル的なメッセージからこのあとどう成長していくのかも期待したい。