ピアニート公爵の「生き別れの兄(設定)」であり日本を代表するアルカン弾きである森下唯さんのオールアルカンアルバムの第二弾がリリースされました。
第一弾では「交響曲」をメインに据えていましたが今回のメインは「協奏曲」。
「すべての短調による12の練習曲」の第8〜10曲に該当する作品です。
協奏曲というタイトルながら、楽器はピアノ1台のみ。一人で独奏パートと伴奏パートを表現しなくてはならない、密度の濃い曲です。
楽曲の規模も大きく、第一楽章が30分、第二、第三楽章もそれぞれ10分と合計で50分。
しかし調性、楽器編成といった制約事項を軽々と乗り越えてあまりある音楽の楽しさが印象的です。アルカンはショパンやリストと同時代を生きた作曲家で、彼らとも親しい間柄だったとのことですが、確かにその時代を思わせるロマンティックでメロディアスな旋律を感じさせ、なおかつ先進的な技巧やアイデアによって飽きさせるということがありません。
難易度に反して意外なほどとっつきやすい楽曲ですので、これを機会にアルカン愛好家が増えるといいなとも思います。
森下さんの演奏は誠実で端正。技術を不要にひけらかすことなく、楽曲の雰囲気を十二分に活かしきっています。第三楽章の「蛮族風アレグレット」では情熱的な表情も覗かせ、作曲家への共感が感じられる名演です。
そしてこのアルバムでもうひとつのメインが練習曲「鉄道」。
これは汽車の走る様子を描写した5分程度の作品ですが、とにかく音数の多い楽曲です。
これでもかというくらいに詰め込まれた音符、速すぎる指定テンポ…。なかなか録音に恵まれないのも頷けます。これをレパートリーにするにはかなりの度胸がいるでしょう。
森下さんの演奏はかなりの快速でスタート。途中、多少落ち着きますが終始高いテンションで終着駅までを駆け抜けていきます。
最後の警笛と停車も心地よく、この曲の1つの決定版と言えるのではないでしょうか。
盛りだくさんで非常に面白いアルバムです。
アルカンの作品はまだまだあるので、第三弾以降も楽しみに待ちたいですね。「12の短調」の残りとか、アレグロ・バルバロとかも聴いてみたいなあ。
10月22日、渋谷のタワーレコードでインストアイベントがあり、聴きに行ってきました。
森下さんは「鉄道」「協奏曲第三楽章」「欲望」を披露。
やはり生で聴くと情報量が全然違いますね。森下さんの演奏は各声部の描き分けが巧みで、聴かせたいメロディーがきちんと聴こえてくる印象でした。また、協奏曲では目を疑うような跳躍やクロスを淡々と決め、圧倒されました。
終演後はサインも頂いてきました。一人ひとりに誠実に対応してくださり、お人柄が演奏にも表れているんだなぁと感じました。
来月はコンサートがあるので、どうにか仕事をやっつけて聴きに行きたいと思います。
森下唯さんにもらったサイン pic.twitter.com/adAYHakQNf
— tk (@tk_saxo) 2016年10月22日