■セットリスト
01.さようなら、こんにちは
02.おいでよ
03.懐胎した犬のブルース
04.無限会社
05.ミネルヴァ
06.冷血と作法
07.ストックホルム
08.She Hates December
09.失業クイーン
10.いきている
11.2121
12.どこでもないところ (Piano ver.)
13.月 (E.Guitar ver.)
14.世界陸上
15.逆光
16.聖者たち
17.ヨーロッパ
行きたくても行けなかったライブを配信で観られるのはうれしい!映像も手元のアップが多めで、どうやって演奏しているのかがよく見えました。演奏は絶好調、熟練の域にまで達しているように感じられ、発表当初は大変そうだったKodomo Rengou楽曲なども余裕や遊びが感じられ、とても良かったです。
波多野さんは親「さようなら、こんにちは」などで指にはめるタイプのピックで演奏。ピックによる固い音と指によるやわらかなニュアンスが同居して、波多野さんのスタイルによく合っていますね。福井さんの手元もよく見え、今までよくわからなかったスラップや和音弾きを確認できたのもうれしかったです。山口さんもacid androidでの経験値をプラスしたカッチリしつつもダイナミックな演奏。全体的にコーラスのクオリティがとても上がっていたのも特筆すべき点だったと思います。
「懐胎した犬のブルース」で波多野さんはキーボードに持ち替え。ここでも手元が映るのが有難い。特に和音のところでの粒がそろった音は指の形をまっすぐに固めて弾いているからだったのだな、という種明かしになりました。福井さんのヴィブラートも抜いてくれて有難いポイント…。山口さんのフィルもよく見え、特にゴーストの細やかな混ぜ込みが見れるのは嬉しいところ。
「無限会社」ではベースもピック弾き。中間部の印象的なフレーズをアップで弾いていたように見えたのは驚きでした。「ミネルヴァ」のサビでは気合のフルダウンピッキング、後半は指弾きに切り替え。あらためてこのバンドは全員の演奏技術が高く、さらに実験的な精神が常にあるのが魅力だな…と感じますね。同じフレーズをとったとしてもこう弾くか…という驚きが大きいです。随所で入る波多野さんのラフな即興フレーズも年を経るごとに洗練されていっている印象があります。
「冷血と作法」は特に好きな曲のひとつ。特に中盤まではほぼ同じベースラインが続くのですが、それでここまで展開が出せるというのも不思議。終盤の加速パートでのベースの和音部分、一瞬手元が映ったことによりやっとどうやってるかの糸口が見えてきたかもしれません…。ここ、奇数回と偶数回で下の音が違うんですよね…。
「ストックホルム」は今までで最高のテイクでは。Family Recordあたりから作品当時の社会の空気感が大きく作品に反映されるようになってきていますが、今の楽曲として聴いても響くところがあるのはさすが。彼らの音楽は直接的に何かを表しているということはないのですが、文章がわかりづらいかというとそうではなく、あくまでキャッチーな部分を残してあるんですよね。
少し久しぶりに聴いた気がする「She Hates December」「失業クイーン」。初期楽曲の静と動のコントラスト。当時ほどの鮮烈な演奏はしなくなった彼らですが、情景をかみしめるような包容力のある演奏に心打たれました。
「いきている」ではコーラスがオクターブ下。この曲は好きすぎて採譜も試みたことがある()のですが、音数がかなり少ないのにも関わらず彼らの世界観、サウンドとしてはかなり広さを感じるつくりになっていてアレンジ力のすごみを感じます。
「どこでもないところ」はピアノアレンジで。印象的なフレーズはそのまま残しつつすっきりとした空気を感じるサウンドに。特に音が少なく濁りづらいぶん、歌のニュアンスがよく伝わってきたように思います。中盤の即興も素敵。そのあとのキーボードが休む部分ではベースとドラム、歌だけでここまでドラマティックな和音進行感が演出できるものかと目が覚める思いでした。
「月」では逆にギターアレンジで。ギター弾き語りの形式に近づいて、こちらは原曲より体温というか温かみを感じるサウンドになりましたね。Wall,Windowの楽曲は年月を経るごとに自分に響いてきている気がします。特にこの月には救われたという人も多いのでは。彼らの曲を聴いて思うのはロックバンドながら常にビートがあるわけではなく、そのビートのない箇所を大切にしているということ。もちろんドラムがないだけでピアノやギターがテンポキープをしている場面もあるのですが、クラシック的なアゴーギグを随所で感じるというか、有機的に伸び縮みするビートを3人が共有しつつ進めていく様が美しいなと思うのですね。
「逆光」も聴くたびに新しい良さが見えてくる曲。構築されているように見えて絶妙に遊びのあるバランス感覚は楽曲の姿を確定させずに常にブラッシュアップしていく彼らならではのもの。特に2Aのパートでのベースライン、コーラスと一体化するボーカルの歌い分けには痺れました。
最後は「ヨーロッパ」。これもメインリフを繰り返しながらだんだんと盛り上がっていって途中から早い別のリフに切り替わる、彼らのお得意のタイプの楽曲(こう特徴を抜き出すと、なんだかブラック・サバスのようにも見えますね)。10年前はある種の切迫感をもちつつ演奏されていたこの楽曲が、微笑みをたたえながら慈しむように演奏されていくのはなんだか浄化されるような感覚すら覚えました。それこそKodomo Rengouの「かみさま」とも地続きなこのサウンドに飲み込まれる感覚はここでしか味わえない音でしょう。
とてもよいライブ、配信でした。
本ライブはBDとして発売され、映像も別のものとして収録されるとのことでそちらも楽しみですね。