2023年ベストアルバム

今年もたいへん面白い作品が多かったです。
特に気に入った作品についてコメントを記載します。

 

 

01.BUCK-TICK - IZORA
02.People In The Box - Camera Obscura
03.cali≠gari - 16
04.World's End Girlfriend - Resistance & The Blessing
05.sukekiyo - EROSIO
06.Insomnium - Anno 1696
07.Kokeshi - 冷刻
08.Sound Horizon - 絵馬に願ひを!
09.THE NOVEMBERS - THE NOVEMBERS
10.色々な十字架 - 少し大きい声
11.Extreme - SIX
12.人間椅子 - 色即是空
13.Haken - Fauna
14.Meitei - Kofū III
15.Liturgy - 93696
16.Steven Wilson - The Harmony Codex
17.clammbon - 添春編
18.Petit Brabancon - Automata
19.Cryptopsy - As Gomorrah Burns
20.オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ - バーンズ交響曲全集
21.GOATBED -夜目遠目
22.Kalmah - KalmaH
23.yoasobi - The Book 3
24.Gotsu-Totsu-Kotsu - 黄泉ガヘリ
25.Yo La Tengo - This Stupid World
26.花譜 - 狂想
27.大間々昂 - 機動戦士ガンダム 水星の魔女 Original Soundtrack
28.陰陽座 - 龍凰童子
29.トルヴェール・クヮルテット - FESTA
30.金属恵比須 - 邪神覚醒
31.kein - 破戒と想像
32.Twilight Force - At the Heart of Wintervale
33.ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 - ショスタコーヴィチ : 交響曲第8,9,10番
34.Yes - Mirror To The Sky
35.西山瞳 - dot
36.木下牧子 - ピアノデュオ作品集
37.DGM - Life
38.ドレスコーズ - 式日散花
39.Ray - Camellia
40.Voivod - Morgöth Tales
41.Cynic - ReFocus
42.Metallica - 72 Seasons

 

■コメント
01.BUCK-TICK - IZORA
色々な意味合いが付加されてしまいましたが、作品として純粋に素晴らしい出来。先行でベストアルバムに収録された「さよならシェルター」に代表される通り、反戦のメッセージがとても強く刻印されたアルバムであり、変化しつつも社会情勢への眼差しを持ち続ける彼ららしい快作。

 

02.People In The Box - Camera Obscura
kodomo rengouも最近の気がしていたのですが、あれももう5年前とかなんですね。あの作品からまた新しいモードに突入したと思われたPeople In The Boxですが、ここにきてさらなる進化を遂げました。実験と熟練のバランス、自由と構築のバランス。大変濃密な40分間です。

Camera Obscura

Camera Obscura

  • Bauxite Music wy.
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03.cali≠gari - 16
毎年何かしらの作品を発表しているcali≠gariは、パブリックイメージとは裏腹にめちゃくちゃ精力的なバンドなのではないでしょうか。今作は彼らの歴史を思い起こさせるかのようなバラエティ豊かかつルーツを強く感じさせるもので、SOFT BALLETのカヴァーが象徴的。過去曲「リンチ」と接続しつつ今だからこそ書ける情景で締める「銀河鉄道の夜」もとても感動的でした。

 

04.World's End Girlfriend - Resistance & The Blessing
2時間半の超大作、超濃密な音旅行。非常に実験的かつサウンドの圧倒的なパワーに押しつぶされるかのような感覚を味わえます。銀河鉄道の夜を踏まえたストーリーであり、まさに銀河鉄道に乗りながらの旅路といったところでしょうか。なかなか何度も聴き通せるものではないですが、一度は体感してほしい作品です。

Resistance & The Blessing

Resistance & The Blessing

  • Virgin Babylon Records
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05.sukekiyo - EROSIO

以前よりイビツなヴィジュアル系の印象が強く、DIR EN GREYではやらないような実験をしているという感触でしたが、今作は一気に化けてきたなという感じ。昭和歌謡感が強く出てきていて、先行リリースされたMOANのサビ「イーアルサンスー新春ショー」は衝撃的でしたね。このアルバムから入るのがsukekiyoは入りやすいのでは。

EROSIO

EROSIO

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06.Insomnium - Anno 1696
メロディックデスメタルの大御所で、毎回クオリティは高いのですが渋かったり大作だったりでなかなかおすすめしやすい感じのアルバムは少なかった印象。今作はそこが少し違って、メロディがとてもクサメロ感があります。中でも「Lilian」はメロディというかメランコリックなコード進行でガッツポーズという感じでした。

アノ 1696 [2CD]

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07.Kokeshi - 冷刻
日本の若手メタルバンドにも面白いバンドがたくさん出てきたなと言う感じがしますが(明日の叙景など)、このKokeshiも大注目のバンド。メタル、ハードコア的な暴力的な演奏と変幻自在のヴォーカルがとにかく強力で、ライブでも独特の世界観を構築していました。ハードな演奏の中にも日本的な幽玄さを感じさせるのがとても魅力的です。

冷刻

冷刻

  • Tokyo Jupiter Records
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08.Sound Horizon - 絵馬に願ひを!
まず聴き通すハードルが高すぎるという問題があるのですが、とはいえ名作には違いないので紹介させてください。ブルーレイの作品で、単に映像がついているだけではなく、曲間で選択肢を選ぶことにより聴くことができることが変わる仕様。しかも、その組み合わせにより聴くことができるエンディング曲も多数あり、それらをすべて聴くことでストーリーの結末まで到達できるという時間がいくらあっても足りない内容です。しかし、ここで描かれているのはRevoの社会への問題意識であり問いかけであり、同時に鼓舞でもある、非常にメッセージ性の強い作品。個人的には「Moira」をさらにアップデートしたような内容に感じました。各ルートごととしてダウンロード販売も開始されましたが、それを揃えても真エンドの曲は聴くことができません。重ね重ねハードルは高いですが、ぜひブルーレイで堪能してほしいところ…。

 

09.THE NOVEMBERS - THE NOVEMBERS
彼らの音楽はそれなりに長く聴いてきているつもりではありますが、正直なところ掴みどころのない、どこか私には理解できないバンドという感触がありました。とはいえその実験精神にはとても興味があって、前作でもその挑戦のひりつくような感覚に痺れていたものです。今作はセルフタイトル。バンドがセルフタイトルをつけるときって、これが自分たちだ!と宣言したい場合もあるかと思うのですが、今回の場合は出来上がってみたらこれが自分たちだね、という内容になったのではないか?と感じます。実験的でありつつ今までの要素の延長上であり、まさしくひとつの到達点と呼びたくなるないようなのではないかと思いました。

The Novembers

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10.色々な十字架 - 少し大きい声
ヴィジュアル系への愛と、同量のボケでできている稀有なバンド。90年代〜00年代のV系の美味しいところを継承しており、その「あるある」的クオリティ自体も良いのですが、アルバムになったことで表現への一貫性も感じられるようになりとても素晴らしい出来になっていました。音源も素晴らしいが特に良いのがライブで、デカデカとスクリーンに映し出される歌詞とのギャップに爆笑必至。ワマ(ワンマンライブのこと)も既に3回成功させており、もうネタバンドとはいえない活躍ぶり。また見に行きたいですね。

少し大きい声(初回限定盤)

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以下、特に記載したいものを


14.Meitei - Kofū III
冥丁の音楽を知れたことは今年の収穫のひとつ。サンプリング的な音の配置とノスタルジックなメロディが独特の癒やしの世界に誘われるようで心地よいです。

古風 Ⅲ(AMIP-0345)

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  • アーティスト:冥丁
  • KITHCEN. LABEL
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16.Steven Wilson - The Harmony Codex
去年はまさかのポーキュパイン・ツリー復活をやっておきながら、ソロでもこれだけの作品を作るというのはスティーブン・ウィルソンの作業速度どうなってるの?と言いたくなりますね。前作はだいぶバンドサウンドから離れてしまった感もありましたが、今作ではやや揺り戻しており個人的にはこれくらいが好み(レイヴンは眠らないあたりのバチバチなのも好きですが)。彼らしい独特の憂いを帯びたメロディが心に残ります。

The Harmony Codex

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17.clammbon - 添春編
クラムボンのいったんの休止にともない発表されたアルバムですが、トリオロジーのときにぐっとポップに寄ったところから各種モメントシリーズを経て、実験精神とポップさを高次元で両立させた楽曲が揃っています。メロディとビートの絡み合いの心地よさ、シンプルなエモーショナルさに説得力がありますね。

添春編

添春編

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19.Cryptopsy - As Gomorrah Burns
ブルータルでテクニカルなデスメタルの第一人者的バンドでありつつ今でも旧作に負けない強度の新作をリリースしているのは驚異的です。特にドラムのフロ・モーニエのアイデアには脱帽で、テンポを落としつつバスドラムを敷き詰めることで遅さと速さを同時に感じさせる表現など痺れました。

 

20.オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ - バーンズ交響曲全集
バーンズは吹奏楽を代表する作曲家のひとり。「アルヴァマー序曲」が大ヒットしたため、その明るく親しみやすい作風のイメージが強いですが、「祈りと呪文」などの実験的な曲もあったり、吹奏楽編成に交響曲を9曲書いていたりと多彩な技を持っています。特に交響曲を書くときは伝統的な交響曲を強く意識した書き方をしているのが特徴的で、描写音楽や伝統的な形式にとらわれない曲が多い吹奏楽というジャンルにあって、動機の展開や楽章の構成が基本をベースにしていると感じられるのは聴くときにも理解の手助けになります。交響曲の中でも特に有名なのは3番で、冒頭で提示される音形が最後まで重要な役割を担い、感動的なクライマックスを形作ります。3番以外、特に6番以降は演奏機会自体も少ないため、こうしてひとつの団体による統一感のある演奏ですべて聴けるようになったことはたいへん喜ばしいことです。

 

23.yoasobi - The Book 3
もはや大人気アニメ請負人という感もあるYOASOBI。今作には「水星の魔女」「推しの子」「葬送のフリーレン」といった大ヒットタイトルの主題歌が含まれており、そこだけでも非常に攻撃力の高い一枚です。作曲のayaseのルーツにはハードロック、ヘヴィメタル的な文脈もあり、今年はメタル系のフェスにも出演して広く受け入れられていたのも記憶に新しいですね。マニアックな趣味や感性をキャッチーにパッケージングする手腕には驚かされますし、物語をベースにするというコンセプトによる世界観への入りやすさも多くの人に届いている秘訣なのかなと。まだまだ目が離せません。

 

24.Gotsu-Totsu-Kotsu - 黄泉ガヘリ
兀突骨は前からちょこちょこと聴いてはいたのですが、スリーピースとは思えない嵐のような暴虐サウンドが魅力。特にギタリストとしては筋肉とギターについての教本も執筆していた円城寺氏のプレイが魅力的です。メタルかくあるべしというフィジカルを活かした高速フレーズ、かと思えばギターメロディになると慟哭の泣きメロ…と、美味しいところが詰まっていますね。ヴォーカルも聞き取れる範囲の日本語デスヴォイスであるところも良いです。新作はCryptopsyのライブでも披露された疫神をはじめ非常にテンションの高い振り切った内容で、ブルータルかつ聞きやすいという驚異のバランスです。

黄泉ガヘリ

黄泉ガヘリ

  • アーティスト:兀突骨
  • B.T.H. RECORDS
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27.大間々昂 - 機動戦士ガンダム 水星の魔女 Original Soundtrack
ガンダムシリーズでありつつも今までとは異なる要素を多分に取り入れ、新しいファン層獲得に成功した水星の魔女。内容もとても面白く見たのですが、SNS戦略や音楽などもとても力が入っていて、ガンダムの底力を感じました。サウンドトラックは特典としてカセットテープをつけてみたりと近年の流行りであるアナログ的なアプローチも。音楽的には声を大きく取り入れたBGMが印象的でしたし、要所要所で出てくるアスティカシアのテーマなど印象的で、手元に置いておきたいと感じさせてくれる作品だったと思います。

 

29.トルヴェール・クヮルテット - FESTA
日本のサクソフォン四重奏を代表するカルテットのひとつ。吹奏楽に大作を多く書いている作曲家の長生氏とタッグを組み、かつてはヴィヴァルディの四季やホルストの惑星といった曲を大胆にパロディ要素を含めてアレンジしてアンサンブルの自由度を拡張してきました。テナーサクソフォンの新井氏が亡くなったあとは神保氏が後任を務めていますが、神保氏になってからのアルバムは今回が初です。メインはレスピーギのローマの祭り。今回も長生氏のアレンジではありますが、パロディ要素なしの正面からの編曲となっていて、これがまた素晴らしい。もとがレスピーギの華麗な筆致による壮大な響きの楽曲であり、それをサクソフォン4本とピアノのために編曲しているので、省略されている音はあるのですが、その塩梅が見事で、オーケストラを聴いているときに外形として聞こえているラインを維持しつつ内部をうまく省略、それでいて各メンバーにおいしいところもあり、という充実した内容です。

FESTA

FESTA

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30.金属恵比須 - 邪神覚醒
日本のプログレバンド金属恵比須のベスト盤。といいつつ新曲や再録もあるので取り上げさせてください。聖飢魔Ⅱ初期の作曲、ダミアン浜田氏のバンド活動のメンバーとしてしばらく活動していましたが、その任期を終えるとともにこのベスト盤にて一端の集大成という感じでしょうか。新曲である邪神覚醒がとても素晴らしく、切れ味鋭いサウンドが魅力的。レジェンドである先達のプログレバンド…King CrimsonやYesなどの影響を強く感じさせつつも日本らしいどろっとした質感、SF感も感じることができる名盤です。

 

35.西山瞳 - dot
メタルからの影響を公言し、メタル楽曲のジャズによる再解釈アルバムもリリースしてきた西山氏の最新作。編成やサウンドはジャズではあるのですが、構成的な面でヘヴィメタル、様式美からの影響が強くうかがえ、ジャズの即興性を保ちつつも俯瞰すると大きな1つのストーリーになっているというメタルリスナーからも入りやすい内容になっていると感じました。

 

36.木下牧子 - ピアノデュオ作品集
合唱曲で特に有名な木下氏のピアノデュオ作品集。私は吹奏楽で彼女の作品に良く触れていたのですが、その印象は常に理知的、数学的。計算しつくされた部品の組み合わせの妙が心地よいというタイプで、リフレインやテクニカルという意味でメタルが好きな私が強く惹かれるというのも納得というものでしょう。今作もメインの「パズル」に代表されるように二人のピアノが有機的かつ機械的に絡み合う様は聴いていてとても面白いです。