第1回 TKWO吹奏楽カフェに行った話

私がよく聴きに行っている吹奏楽団が新しい取り組みとして「吹奏楽カフェ」なるものを開催したので、行ってきた。

 

 

メインの部分は後日youtubeにもアップロード予定とのことなので、内容についてはそちらを参照いただけたらと思う。19:15~21:10のおよそ2時間のトークイベントであった。

 

観客は30人弱で、スタッフはTKWOの事務局や団員が行っていた。各テーブルにお菓子がおかれ、飲み物もサービスされるため、それらをつまみながらトークに耳を傾けることができるスタイルだ。「講座」のような格式ばったものにしないという意図から「カフェ」と名付けたとのことで、本当に飲食物をふるまうつもりは当初はなかったそうだが、話の枕としてお菓子の話題でくだけた雰囲気になっていたので、あって良かったと感じた。

 

吹奏楽についてのこういったトークイベントはあまり聞いたことがないのではないかと感じる。というのも、指揮者や作曲家が聴衆の前で喋る機会としてよく思い浮かぶのはプレコンサートなど演奏会場であって、トークそのものを独立させてイベントとする例があまりない(私の観測範囲だけかもしれないが)からだ。

 

プレコンサートでは長くても15分とかで、想定客層も幅広くなるため、そこまで深入りした話はできない。また、その後に演奏を控えていたりすることもあってどうしてもトーク自体に全力投球は難しいと思われる。その点、今回は完全にトークのみに焦点をあてているところが好感を持てたし、なにより「語る場」を作ろうというその姿勢に強く感銘を受けた。また、対象を一般に開いているところもありがたい。

 

というのも、こういったクラシックの作品についての語りというのはどうしてもプロとアマチュアが分断しやすい分野だと思われるからだ。これがロックなどの場合はフリーライターなど在野から出てくる語り手というのも想定されるが、ことクラシックについては大学をはじめ、「内部にしか見えない」情報が大変多く、なかなかこういったトークイベントのような商業的なイベントという発想が出てきづらいのではないか。これは職業演奏家、職業作曲家になるために必要な知識の膨大さを鑑みてもある程度納得いくいっぽうで、趣味が多様化しリスナーの確保がむずかしくなっていく現代社会においては裾野を広げるハードルにもなっているのではないかと感じる部分だ。

 

今回語られたような、「作曲者の人となり」「作品が書かれるにあたっての意図とその技法」「想定されたのではないかと思われる参照項」といった語りは、それこそ本来は大学やレッスンの中で行われるものにも近いのではないかと思う。しかし、こういった内容は作る側だけに閉じてしまうのはあまりにもったいないのではないかと思っていた。会の後半で中橋氏も触れていたが、情報を知るにあたってインターネットはもちろん、書籍すら誤りがあることも少なくない昨今、一次情報(当時のプログラムノートなど)を調査したり、実際にその場にいることの多い人からその語りを聴くことができる機会というのは貴重だ。

 

さらに今回の特筆すべき点として、「リスナー≒演奏者」である吹奏楽というジャンルのイベントであるに関わらず、演奏上のポイントのような「実用的」な話題がほぼ登場しなかったことも素晴らしかった。あくまで吹奏楽を音楽作品としてリスナーとして楽しむうえでの見方であったり、楽譜の読み方という視座にあったのが私のような「聴き専」リスナーにとっては心地よく、また吹奏楽を芸術作品として扱いたいという想いの表れにも感じられた。

 

今回は第1回ということでこれからブラッシュアップされていくと思われるが、とても可能性のある座組だと感じられたので、今後に期待することをいくつか挙げておきたい。
※ダメ出しのような意図は全くないのでご容赦いただきたい。

 

・時間配分
 今回は2時間で2つの演奏会にフォーカスするという内容上、仕方なかったと思うが、話が盛り上がりかけたところで次の話題に進まざるを得なくなっている箇所が何回かあったと思う。「カフェ」という命名からは私が普段ほかに見ているプラットフォームである「ゲンロンカフェ」も想起するが、そちらの特徴として「延長自由とすることで長い時間を登壇者と共有し、より人間らしい話を引き出す」ところがある。会場がレンタルである以上、限界はあると思うが、これだけ面白いのであれば全開で話す二人をもっと見てみたいと思わされた。
 ※なお、上記プラットフォームは関連会社のサービスとして「シラス」という動画配信を行っており、作曲家の新垣隆氏もチャンネルを持っている。私もたまに視聴しているが、自作を解説していた番組などはたいへん面白かった。

shirasu.io

 

・想定視聴者
 大井氏はTwitter上で「初心者にも」という趣旨のポストをしていたが、内容としては演奏会で取り上げられるランセンやゴトコフスキーだけでなく、スクリャービンやパリ警視庁音楽隊、スヴェトラーノフやフェネルなどがどんどん登場し、かなりハイコンテクストだったとは思う(わかる側としては大変楽しかった)。個人的には今の路線でも十分面白いと思っているのだが、もし初心者を取り込むのであれば、「初心者想定の質問者」を配置するか、「パワポなど視覚的な補足資料を用意しておく」という対処が考えられるのではないかと感じた。もちろん人件費や準備の増加にはなるのだが…。

 

次回は5/8にマッキーについて取り上げるとのこと。期待。