Anaal Nathrakh & SAMAEL「Double Headliner Japan Tour 2024 @ 赤羽ReNY alpha 2024/03/09」

Anaal Nathrakhを観てきました!
前回は2019年。ライブもうやらないかも、という時期もありましたがまた日本に来てくれて嬉しい限りですね。
ダブルヘッドライナーということで両バンドとも15曲以上やってくれる大満足セットでした。

 

■Cataplexy
日本のバンド。この日の中では最も伝統的なブラックメタルに近く、コープスペイントで登場。演奏はブラックメタルらしい寒々しい感じもありつつ、要所でメロディーが良く聞こえる感じで楽しかったです。

 

■SAMAEL
01.RAIN
02.SHINING KINGDOM
03.ANGEL'S DECAY
04.SLAVOCRACY
05.JUPITERIAN VIBE
06.BLACK TRIP
07.SON OF EARTH
08.THE ONES WHO CAME BOFORE
09.REIGN OF LIGHT
10.BAHOMET'S THRONE
11.CHOSEN RACE
12.INFRA GALAXIA
13.YEAR ZERO
14.CEREMONY OF OPPOSITES
15.SAMAEL
16.BLACK SUPREMACY
17.MY SAVIOUR

 

SAMAELは今回初めて知ったバンド。ドラムは不在でしたがKeyが要所でパッド(シンバルもあった?)を叩いたりとリズム的要素も不足感まったくなし。映し出される映像とも相まってコズミックな世界観がよく出ていました。
4つ打ち的な縦ノリの楽曲が多くてミドルテンポが魅力的、個人的には「The Age Of Nero」期あたりのSatyriconなんかを想起しつつ聴きました。

 

選曲はどうやら最近、再現セトリをやっていたらしいアルバム「Passage」曲をメインに他アルバムの曲を途中に混ぜ込んだ感じ。「Hegemony」は予習で聴いていたので、ライブのクライマックスでSamaelが披露されたときは感無量でした。わかりやすいメロディがあるタイプのバンドではないのですが、SF的な空気感はかなり好みだったので、これから聴いていきたいですね。

 

■Anaal Nathrakh
01.Acheronta Movebimus
02.Unleash
03.Hold Your Children Close And Pray For Oblivion
04.Libidinous (A Pig with Cocks in Its Eyes)
05.Bellum Omnium Contra Omnes
06.Between Shit And Piss We Are Born
07.Submission Is for the Weak
08.Do Not Speak
09.The Age of Starlight Ends
10.The Road To…
11.Obscene as Cancer
12.Idol
13.In the Constellation of the Black Widow
14.Forging Towards the Sunset
15.Forward!
16.Endarkenment

 

ANはこれまでにも2回、来日を見ていますがぶっちぎりで今回が最高でした。
これまでも暴虐性と泣きメロのコントラストは楽しめていたのですが、いかんせんサウンドが荒々しすぎて聞き取れない部分が多かったこれまでの来日と比べ、今回は会場のサウンドもかなりよく、ギターリフもギターソロもバッチリ聞き取れました。また、ヴォーカルやコーラスも楽器に埋もれず、特にクリーンで抜けてくる絶妙なバランスになっていて、楽曲の良さをあらためて確認しながら聴くことができました(リードギターのギターは他国に誤送されてしまったとのことでEVPのYAMA氏のギターだったとのこと。いい音でした)。

 

セットリストは直近の海外での公演とほぼ同じながら、激ヤバ曲「Libidinous」が追加されていてお得。あとは全体的にベストアルバムか?というほどのキラーチューンばかりで(そもそも攻撃力の高い曲ばかりではあるのですが)、ただただあっという間のライブでした。特にThe Road to…以降は本当に一瞬。演奏も全体的に精度が高く、Voはクリーン以外では突っ込みぎみに暴虐性を強調しつつもクリーンではタイトに歌い上げていてメリハリがきいていました。観客の盛り上がりも物凄く、なかなか危なっかしい瞬間もありましたが、メンバーは嬉しそうでしたし、EVPや来日を後押ししてくれた人々へ感謝を述べていました。

 

最後の「Endarkenment」も最新アルバム曲にして最高のキラーチューン。サビは一緒に歌いたくなりますよね。本当に最高のライブでした。まだまだ見たい!

 

名取さな「さなのばくたん。 -王国からの招待状- Powered by mouse @ 川崎チネチッタ 2024/03/07」

Vtuber、名取さなのイベントについに現地参加してきました。

普通にネタバレ書くので、これからアーカイブ視聴の方はご注意を…。

 

 

「名取さな」はいわゆる個人勢のVtuberで、今年で6周年を迎え、7年目に入ります。
私はVtuber四天王あたりが流行ってた頃に界隈を見始めて、名取さんを見始めたのは…この動画の頃だった気がします。インターネット上での振る舞いのライン引き…というか許容範囲が私のそれとかなり合致していたのでずっと心地よく継続視聴しています。当時はデビルマンMADとかも流行ってましたね。懐かしい(さすがに古参アピになっちゃうか…?)

 

 

2020年3月7日には初のライブイベントも企画されていたのですが、コロナ蔓延により直前で中止となってしまい(もう4年前か…)、翌2021年からは毎年川崎チネチッタでライブイベントを開催しています。


ライブイベント本編だけでなく川崎ラ・チッタデッラの各飲食店とのコラボも合わせて実施されているのが特徴で、当日だけでなく前後しばらくの間、コラボメニューなどを楽しむことができてとても施設に根付いたコラボになっているなと毎回感じます。かくいう私もグルメポップコーン「ヒルバレー」をコラボきっかけで食べ始め、コラボ期間以外でもたまに買いに行くリピーターになってしまいました。

 

誕生日のイベントでは川崎チネチッタ(映画館)のスクリーンを使って開催され、今年はなんと全スクリーンを貸し切りでの大型開催となりました。自身のオリジナル曲も毎年リリースしており、それに加えて各回のテーマに沿ったカバー曲も披露されるライブパートと、アンケートやコメントとの交流を取り入れた催し、トークパートにより構成されるイベントで、前回までは声出しNGだったのでサイリウムの色により観客が感情表現をするという文化が根付いていました(赤は怒り、青は哀しみ、緑は草など)。

 

私も毎年イベント自体は配信で見ていたのですが、しばらくはコロナもあったし、なによりここ数年は仕事がマジでキツい感じだったので、現地でイベント参加できるのは今回が初でした(飲食コラボは今までも行ってました)。やはり現地は良いですね、没入感が違います。残業しながら片目で見た去年(けっきょく去年は途中で感情がぐちゃぐちゃになったので仕事どころではなくなりましたが…)とは大違いです。

 

私の場合はわりと現地に行きやすいこともあり、当日は有休とっていたもののコラボ飲食は後日…として、ラゾーナをうろうろしたあとにチネチッタに移動しました。(有休を最大限に使いたかったので映画「ボーはおそれている」を見ました。何で?こんな3時間もある映画を前菜として見てしまったの…?)

 

現地入りすると入場が開始しており、どこを見ても名取グッズを持った者たち。なれ合いは禁止なので会話はほとんど聞こえてきませんが、謎の一体感を感じました。私は前から数列目の真ん中あたりというかなり良い位置取りで、後ろからの観衆の声もバッチリ聞こえつつ楽しませてもらいました。

 

■セットリスト
01.エッビーナースデイ
02.メチャ・ハッピー・ショー
03.PINK,ALL,PINK!
04.ナゾトキ処方箋(てにをは カバー)
05.デビルの証明(新曲)
06.いっかい書いてさようなら(新曲)
07.さなのおうた。

 

イベントが開始するとまずは王による前説(およびコール&レスポンス練習)。
初期からの楽曲でコール&レスポンス要素が多いものが連続で3曲取り上げられており、なるほど当初は声出しNGになる世界なんて想像できなかったものな…という感慨もありつつ。前回の爆誕イベントがいわゆる「名取さな 第1期」を締めくくるようなシリアスめの内容だったこともあり、今回は新しいタームの始まりという感じで、本来あるべき姿でのコール&レスポンスで各楽曲の印象をアップデートしていく感覚が味わえました。これは現地勢でよかったと強く思いましたね。

 

トークパートは前回までの登場名取たちを踏まえて複数名取が同一世界線上に存在している表現で、画面の見栄えとしても豪華でしたし毎年演出のレベルアップを感じて楽しいですね。これまでも複数うさちゃんせんせえダンスなど、複数の生命が動いている状態は見ていましたが、これだけ同時存在名取が一気に摂取できるのは新鮮な体験でした。

 

声出しを確認するようにレスポンスを煽る名取と「うおおお」で応えるオタクたちの構図、配信だとあまり歓声大きくは聞こえませんんが現地はかなりウケる感じでした。アンケートは最初こそ電波がなかなか入らず、待って!待って!という声があちこちから飛んでいましたが、実際のアンケートメインコーナーでは大丈夫そうだった印象です。あとハウリングの質感高すぎてびっくりしちゃったよね(マジのやつじゃんという聞こえ方でした)。

 

今回の新衣装である探偵名取も短パンとみつあみがかなり良くて、アクスタ買っておけばよかった…とめちゃくちゃ思いました。当日は売り切れていたので、通販で確保します(ああ、「ボーはおそれている」を見に行ったばっかりに…)。カバー曲の「ナゾトキ処方箋」もとても良くて感動しました。名取さんは声質が抜けてきやすいのもありますが、感情を声に乗せる、演技的な歌い方がとても上手で、どんな曲でも自分の表現にできているのが本当にすごいと思います。

 

謎ときパートも面白かったです(詳細はぜひアーカイブ配信をご覧いただきたい)。名取のリアクションもさることながら、私のいたスクリーンでは4桁の数字を当てるところで「0001!」「0002!」「0003!」(それぞれ別方向から)という総当たりが始まっていてさすがに超ウケてしまいました。たけのこニョッキか?

帰宅後、配信で見るとどうやら8スクリーンではちゃんと名取の問いかけに答えていたっぽいのですが、弊スクリーンでは1000の位まで「わかんなーい」が最大勢力だったので、そのへんの違いを楽しめるのも現地ならではですね。

 

新曲2曲もたいへん素晴らしかったです。今までの楽曲はあえて分類するなら「名取さなという存在を語るための歌」が多かったと思いますが、今回は一歩外側に出て、「こういうイベントを表現するために必要」という発想での楽曲群だったように思います(そういう意味では、去年の「ゆびきりをつたえて」から始まる「おしりぷり音頭」含む楽曲群からがそのモードであるともいえそうですが)。

 

制服名取パートは少しだけ前回を引き継いだメッセージ性のパート。モードがブルアカ配信のシュロをやっていたときを彷彿とさせていて少しニヤッとしてしまいました(というか、全編マスクのしたでオタク・スマイルしながらサイリウム振っていたのですが…)。名取さんは自分の表現物を作ることで自分の成果物に自分の生き方をアップデートさせていっている感があり、そういう意味では表現の発信者でもあり受信者でもあるという位置取りなのでさなちゃんねる民との一体感や共感も生まれているのだなとあらためて感じました。

 

本編終了後、スクリーンにタイトルロゴが出たあとにしばらくの沈黙があり、どこからともなく「あ、アンコールかあ!!」という声からアンコールが始まったのもさなちゃんねる民の空気という感じでとても楽しかったです。終演後はEX THEATER ROPPONGIでのライブが秋に開催されることが発表に。今までの生誕祭もライブではあると思うのですが、わざわざ1st Liveと銘打つからにはより音楽にフォーカスした内容にしてくるのではと期待が高まります。会場自体は筋肉少女帯のライブなどで行ったことがありますが、かなり広かった記憶があるので、あそこがピンクに染まるのがいまから楽しみです。

 

東京佼成ウインドオーケストラ「酒井格作品集」

私が特に好んで聴いている吹奏楽団の新作が出た。

 

 

 

東京佼成ウインドオーケストラ(以下、TKWO)は数年前から独立し、それに伴い一時的に活動規模も縮小、CDのリリースもかなり減ってしまっていた。

それでも定期演奏会のクオリティは毎回さすがと唸らされるものだったし、一度窮地を経たからこそ現在の聴衆との関係もまた築けてきているのではと思う。来シーズンの定期演奏会も発表され、その意欲的なプログラムにはとても期待が高まっている。

 

今作は久しぶりのセッションレコーディングによる新作で、しかもひとりの作曲家に焦点をあてた企画盤だ。指揮者の大井氏はもともと吹奏楽好きとして知られているところではあるが、なんと今回の企画は大井氏の出資によるとのこと。

 

「イタリスト」を自認する酒井格ファンの大井氏率いるTKWOは、今回のレコーディング直前に同内容の演奏会を行っていたこともあり、いずれもライブ感のあるハイテンションな仕上がりになっている。

 

今回の目玉はなんといっても出世作である「たなばた」(正式名は「The Seventh Night of July」)の初期稿だろう。酒井が高校在学中に独学で書き上げたこの曲は、後にいくらかの改訂を経て海外の出版社に持ち込まれ、見事出版にこぎつける。日本でもバンドクリニックをきっかけの一つとして広まり大ブレイクし、今では国内吹奏楽曲の代表の1つと言っても過言ではない普及度合いとなった。今回の演奏は楽譜こそ初期版であるものの、解釈は最新…つまり、特に後半部の仕掛けなどが明らかになっている状態であるため、より興味深く聴ける。演奏のメリハリのバランス感も素晴らしく、仕掛けを強調しすぎることなく各声部が聴き取れるようにしていてとても良い。あらためてこの楽曲の魅力を認識できた。

 

「148の瞳」「さよなら、カッシーニ」といった比較的新しい楽曲が取り上げられているところも大井氏のこだわりを感じさせる。いずれも持ち味のメロディーの良さに加え、スパニッシュであったりサウンドトラック的であったりと多様な表情を見せるオーケストレーションも魅力だ。

 

「森の贈り物」は個人的に一番期待していた楽曲だ。様々な楽器の印象的なソロもさることながら、楽曲を貫く大きな一本のストーリー感が心地よい。それでいてアンサンブルはなかなかの難所が多いのだがここでもTKWOは常に美しいサウンドを響かせている。これまではこの作品を聴きたいときは委嘱元である龍谷大学が鉄板だったのだが、今後はこの演奏も決定版の一つになるだろう。

 

「いちご協奏曲」はフルート、オーボエファゴットの三重協奏曲で、なんと大井氏の委嘱。自分で楽曲を委嘱までしてしまうとは、この作品集(および演奏会)に傾けた情熱のほどが伺えるというものだ。特に木管楽器の近現代の協奏曲というと特殊奏法であったり難解な語法を使った曲が多い印象があるが、そこはさすが酒井と言おうか、どの瞬間をとってもメロディアスであり聴きやすくキャッチーだ。私も吹奏楽をやっていたときに酒井作品を演奏したことがあるが、そのときと同じ「演奏していて楽しくなる音楽」になっているのだろうなと感じた。

 

初期の代表曲から最近の曲、そして協奏曲と吹奏楽における酒井格作品の様々な形態を味わえる贅沢な一枚となっているので、酒井格入門にも既存の酒井格ファンにもおすすめできる好企画と思う。ぜひ聴いてみていただきたい。

 

また、本アルバムはCAFUAレコード公式から購入すると過去に酒井氏と大井氏が対談形式で「たなばた」の解説を行った際の動画が付いてくる(2時間以上)ので、だんぜんオススメだ。

 


www.youtube.com

cali≠gari「cali≠gari 30th Caliversary”1993-2024″ 同級生は13歳 @ Spotify O-WEST 2024/02/29」

cali≠gariの月末ライブに行ってきました。
30周年ということで各月30日に行っているライブで、毎月趣向を凝らした企画が行われます。今回は2月なので29日。

 

■セットリスト
SE
01.とある仮想と
02.夜陰に乗じて
SE
03.嗚呼劇的
04.トゥナイトゥナイ ヤヤヤ
05.隠されたもの
SE
06.鐘鳴器
SE
07.動くな!死ね!甦れ!
SE
08.カメラ オブスキュラ
SE
09.死は眠りを散歩する
SE
10.オーバーナイトハイキング
SE
11.その斜陽、あるいはエロチカ
SE
12.吐イテ棄テロ

En1.
SE
13.狂う鐫る芥
14.わるいやつら

En2.
15.Kiss in the moonlight (UP-BEAT)
16.IDENTITY CRISIS (GRASS VALLEY)
17.Engaging Universe (SOFT BALLET)

 

復活後にずっとcali≠gariを支えているマニピュレータの白石元久氏がこの閏日の生まれということもあり、同級生は13歳(ギター桜井と同学年だが、誕生日は4年に一度なので…というネタ)というライブタイトルとなりました。また、かつて同名のドラマがあり、その主題歌をUP-BEAT(桜井がたいへん影響を受けたバンド)が担当していたこともあり、当時のビートロック、ニューウェーブ的ドラムのオリジネイターの一人である上領亘氏をゲストドラマーに迎えての公演となりました。

 

白石氏はcali≠gariのライブのオープニングやアンコール前のSEなども制作してきており、そのSEに焦点を当てるという非常に特殊な構成。曲が終わるたびに照明が暗転しSEからの曲演奏に移るさまは極小のライブを何度も何度も体験しているかのようで、時間感覚が狂わされるような不思議な感触でした。

 

セットリストはこれまでcali≠gariのアルバムレコーディングで上領氏が叩いてきた楽曲群をベースにSEの存在する曲を交えたもの。特に「トゥナイトゥナイ ヤヤヤ」はアルバム版のアレンジでライブ披露されたのは初めてだったはずなので、とても貴重でした。

 

普段は舞台袖で見えるか見えないかの位置にいる白石氏はこの日はステージ中央の奥に陣取り、ドラムセットも左右に配置。左側を上領氏が担当していました。暗転から白石氏だけにスポットが軽くあたり、SEをたっぷり時間をかけてからのオープニング。いつもはメンバーが出てくる方に気を取られますが、SEを堪能しようとしてみるとそれぞれの構築感(だんだんビートが増えてくるビルドアップ感とか、凝ったパンニングとか)がよくわかり、また新しい気持ちで楽しめるなと感じました。

 

「とある仮想と」は静と動のグラデーションが美しい曲で、特に後半の疾走感はこれぞオリジナルというビート感。cali≠gariはけっこう前のめりなビート感の演奏になることが多めかなと思うのですが、上領氏は非常にタイトにビートを置いていくので、また違った味わいが出ます。「嗚呼劇的」からの「トゥナイトゥナイ ヤヤヤ」で早くもこの日のひとつのハイライト。特にトゥナイは実演に際しアルバムアレンジでありつつもかなり攻撃的なビートになっており、もとの浮遊感を活かしつつもSOFT BALLETのVirtual war的なEBM感が漂ってとてもカッコいいサウンドでした。

 

「カメラ オブスキュラ」や「死は眠りを散歩する」ではまた違うビートパターンが楽しめ、特に後者ではここまでヘヴィでダークな上領氏はなかなか見られないのではというレア感を堪能。「その斜陽、あるいはエロチカ」「吐イテ棄テロ」はそもそもの演奏機会がかなり減っていた曲でもあり懐かしさとともに新鮮に聴きました。

 

アンコールでは白石氏が右側のドラムに座り、ツインドラム編成に。SOFT BALLETやそれに影響を受けたであろうGOATBEDなどでも見る形態ですね。白石氏のドラムはずっしりとした音で、軽やかでテクニカルな上領氏とよいコントラストになっていました。メンバー全員がたいへん楽しそうだったのも印象的です。白石氏がドラムなのにマニピュレータ席に戻ってしまったことから急遽村井氏がMCでつないでメンバー紹介などをしていましたが、結局指摘されるまで気づかずに、次もドラムですよね…?と言われてからのドラムに移動し、上領氏がポン出しをするという微笑ましい展開も。続く「わるいやつら」は微笑ましさなし容赦なしの凄まじい演奏で、原曲でも暴れまくりのドラムを披露した上領氏がとにかく凄い。中間部の歌の後ろでドラムソロをするパートは白石氏がハットでキープしつつ上領氏が暴れまわるという目がいくつあっても足りない見どころ満載の一瞬でした。

 

ダブルアンコールはコピーバンド大会に。
先述のUP-BEATに加え、上領氏がかつてメンバーだったGRASS VALLEYや上領氏や白石氏に縁の深いSOFT BALLETの曲をカバー。後者2曲はすでに過去ライブでも取り上げたことがあるのもあって安定した演奏(桜井氏は途中譜面見てましたが…)で、UP-BEATも桜井氏が学生時代にコピーしまくった思い出の曲ということもあってか熱の入った演奏。ベースフレーズもさらに練られていたように感じましたし、ぶっちゃけこれ系のカバーで1枚アルバム出してほしいくらいの楽しさでした。(cali≠gariは過去にBUCK-TICKやDEAD ENDのトリビュートでそれはもう見事なカバーを披露しており、そちらもおすすめです)

 

また4年後にやりましょう、と話されていましたが、こちらはいつやってくれてもウェルカムですよ!という気持ちです。またこういう機会があることを願いつつ…。

 

NHK交響楽団「第2004回定期演奏会 @ NHKホール 2024/02/03」

井上道義さんの演奏会に行ってきました。

 

■曲目
01.ポルカ「クラップフェンの森で」(ヨハン・シュトラウス2世
02.舞台管弦楽のための組曲 第1番(D.ショスタコーヴィチ
03.交響曲第13番(D.ショスタコーヴィチ

 

井上道義氏はかなり信念の強い指揮者で、特にショスタコーヴィチを得意としています。2024年をもって指揮者を引退することを宣言しており、今回がNHK交響楽団での最後の定期となります。

 

個人的にここ数年はショスタコーヴィチ交響曲に興味があり、いくつかの全集を集めたりしていたところでしたし、井上道義氏の音楽は大阪市音楽団を振ったときのディスクなどでとても好感触だったため、ぜひ一度、生で演奏を聞いておきたいという気持ちがありました。

 

ポルカ「クラップフェンの森で」はシュトラウスがロシア滞在をきっかけに書いたもの(作曲時のタイトルも「パヴロフスクの森で」)で、鳥笛が印象的に登場。あえて鳥笛を少し遅めに演奏させ、一瞬オーケストラが待つ形になるのが自然を感じさせ、面白く聞きました。最後は鳥笛奏者が吹いていないのに鳥笛が聞こえ…という面白演出もあり。井上氏のエンターテイナーぶりや、それを楽しんでいる感じが良かったです。

 

舞台管弦楽のための組曲はかつてはジャズ組曲第2番とも呼ばれたものから、行進曲、リリックワルツ、小さなポルカ、ワルツ第2番。
この組曲はジャズ組曲という名前で聞くとジャズ要素がどこなのか困惑することになるので、舞台管弦楽のための組曲というほうが実情にもあっていて理解しやすいでしょう。舞台で使用されるBGM的な、様々なシーンを想起させる楽曲群という感じです。サクソフォンアコーディオン、ギターが効果的に用いられており、大衆音楽作家としてのショスタコーヴィチがよくわかる作品となっています。井上氏の棒は変幻自在で、タクトを持ったかと思えば途中で左手にしまって素手で感情豊かな表現を引き出したりと、計算されつつも感情表現がよくわかる流麗でパワフルな指揮でした。演奏も素晴らしく、特に2つのワルツでの哀愁漂うサウンドはたいへん心地良く聞きました。

 

後半はいよいよ交響曲第13番。バス独唱と男声合唱を伴う大編成オーケストラによる演奏です。独唱はアレクセイ・ティホミーロフ氏。数年前にムーティともこの曲を取り上げた録音があるようです。5つの詩をベースにショスタコーヴィチが音楽で補完したり仕掛けを入れたりと凝った作りの楽曲で、1時間の演奏時間の中にも場面がころころと変わり飽きさせません。特に1楽章はバビ・ヤールを題材にとっておりたいへんシリアスな内容。前半の軽い曲との対比がよく効いていました。

 

井上も2007年にショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏で取り上げておリそれも名演でしたが、今回もたいへんな名演だったと思います。オーケストラ含めかなりの集中力を感じる演奏で、最後のチャイムが消え入るような味わいはやはり現地で聴いてこそでしょう。聞きに行けて良かったです。

 

また非常に良かったのが独唱のティホミーロフ氏で、歌声もさることながら、時に身振りを大きく交えて感情がよく伝わる表現スタイルで、これも井上氏のスタイルによく合致していたと思います。2楽章などは合唱との掛け合いが細かいので、特にその良さが出ていました。5楽章は比較的ゆっくりめのフルートにはじまり、最後に消えゆく際も祈りのような静けさを感じさせてとても印象に残りました。今回の収録音源はラジオでも流れる予定のようなので、チェックしたいですね。

 

実演を聴いて、あらためて井上道義氏のショスタコーヴィチに対する思い入れを感じましたし、雄弁な指揮姿にまだまだ観たいとも思わされました。今後の演奏会予定もチェックしておかねば…。

 

東京佼成ウインドオーケストラ「第163回定期演奏会」

■曲目
01.ウインド・プレイズ(福丸光詩)
02.アスパイア(J.ヒグドン
03.金管楽器と打楽器のための交響曲(A.リード)
04.第5交響曲(A.リード)
05.科戸の鵲巣(中橋愛生) 
06.マーチ「ゴールデンイーグル」(A.リード)

 

とても祝祭的な雰囲気に包まれた演奏会でした。指揮者の大井氏は東京佼成ウインドオーケストラの正式者に着任してから十年。当時の着任記念演奏会でも科戸の鵲巣が取り上げられており(CD化もされています)、十年の間に着実に実績と信頼を築き上げて次シーズンからは常任指揮者になることが決まっています。常任指揮者はかつてのフレデリック・フェネルと同等のポジションであり、単に音楽を作る以上に団としてのビジョンを強く共有して方針にもコミットが強くなっていくということなのでしょう。

 

私が東京佼成ウインドオーケストラ定期演奏会に足を運ぶようになったのも十年前くらい。当時から圧倒的な解像度を誇るクリアな演奏に魅せられてきましたが、確かにこの十年での変化も感じます。特に大井氏のカラーだなと思うのが演奏すること自体への意味付けでしょうか。単にエンターテインメントとして楽曲を配置するだけではなく、その都度の演奏会において明確なテーマを設定し、全体としてコンセプトアルバムのように聴かせる取り組みは刺激的でしたし、メッセージ性の理解にも助けになります。次シーズンのプログラムも大井氏だけでなく各指揮者の回でテーマが明示されるようになっているので、団として毎回の演奏会を作品として捉えるという意識が強まったのかなと想像させられます。大井氏はさらにマスランカチクルスという複数回の演奏会をひとつとして扱う試みにも手を伸ばしており、スコープを拡大したのだなと見ています。

 

今回のテーマは十年のしめくくりと未来への展望と言えるでしょうか。吹奏楽作曲家の大御所であるアルフレッドリードの交響曲のうち最初と最後のものを取り上げ、この十年で取り上げてきたリードの交響曲全曲演奏を完遂すると同時にヒグドンの最新曲や委嘱作品といった新しい感覚のサウンドを提示、十年前と同じ中橋作品の再演でひとつの円環を成すという仕掛けになっていました。私はこの団のサポーターズクラブにも入っており、ゲネプロも見学させてもらうことができたのですが、演奏に入る前に大井氏から楽団員への感謝の挨拶があり、この演奏会と楽団そのものに対する情熱がよく分かりました。

 

オープナーとなる福丸氏の委嘱新作「ウインド・プレイズ」は5分程度の短い作品の中に多層的な要素が入り乱れる意欲的な楽曲。冒頭の大井氏の氏名を同機としたトランペットに導かれて幾度かの波が押し寄せるような感触の作品でした。要素が多いと書いたものの、各要素のメロディーや和声は比較的理解しやすいというか聴きやすいもので、そのぶん重層的に同時進行することがらを把握できないことによる「わかるのにわからない」という独特な浮遊感を面白く聴きました。全体を通して祝祭的な感触が強かったことも良い驚きで、好きなように書いてほしいというオーダーに対しこのような機会や受け取り手のためという同機が強く現れるところに福丸氏の人柄がよく出ているようにも感じました。演奏後にはロビーでスコアも販売され、即完売していました。私は入手に成功。読み込みます。

 

グドンの「アスパイア」はこの日の演奏曲の中では外見的には最も静かな曲。木管楽器の音色の移ろいを強く感じさせながら織物のように丹念に組み合わされてゆく音を楽しむという楽曲で、これもたいへん興味深く聴きました。印象こそ静かであるものの各パッセージやハーモニーの絡み合いは精緻さを求められ、かなりの難曲と推察されます。噛みしめるように堪能したい名曲と感じました。

 

リードの交響曲の第1番という扱いになる「金管楽器と打楽器のための交響曲」は熱演。ホルンが最前列(とはいえ、指揮台との距離感は特殊管クラリネットと同じくらいの位置)という配置にも苦心が伺える編成でしたが、リード作品らしい重厚な響きとTKWOらしい整頓された高解像度な響きが両立。各パートの動きもしっかりわかり面白く聴くことができました。打楽器の活躍も素晴らしく、3楽章でのラテンな盛り上がりは興奮させられました。木管主体のアスパイアに対して金管によるリード交響曲ということで、各セクションの持つサウンドの魅力をあらためて提示する意図もあったのかなとも感じました。

 

休憩を挟んでリードの「第5交響曲」。これもたいへんな名演だったと思います。リードによる自作演奏の音源はTKWOとは第4交響曲までしか行われていなかったため、第5交響曲を彼らが演奏するというのは非常に貴重でもありました。第4交響曲などの技巧的な楽曲の流れを組んで凝った内容であると同時に、さくらさくらの主題を大胆に取り入れた第2楽章からもわかるリードのあたたかな想いが感じられる音楽です。今回特に印象に残ったのもやはり第2楽章で、日本的な和声をまとって登場したさくらの旋律が西洋的な装いになり盛り上がるのがとても暖かく演奏されていて心地よく聴くことができました。第3楽章も速いパッセージが多いところをメリハリよく聴かせ、納得感がありました。

 

最後は中橋氏の「科戸の鵲巣」。すでに十年前の演奏、録音がたいへんな名演だったので今回はどのようなアプローチで来るのか楽しみにしていました。前回はどちらかというと印象的な主要同機にフォーカスし、埋め込まれた同機の移ろいを順に見ていくという一本の線が通ったような演奏に感じたのですが、今回はメインの同機以外にもフォーカスがあたり、より多層的な響きが印象に残るようになっていました。この十年で社会も大きく変わり、より多様性を重要視するような流れがありますが、それも感じさせられるようなスケール感の大きな演奏でした。各パートがそれぞれの主張をしつつ、違うタイム感を持ちながら(風紋やクロス・バイ・マーチのように複数の登場人物が)時に集合し時に離散しという表現に、この曲はある意味、人間讃歌的な側面があったのだなという認識も新たにしました。最後の響きが消えきるまで拍手が起きず余韻が完璧だったのも嬉しいポイントでした。

 

アンコールにはリードのマーチ「ゴールデン・イーグル」。石川県の歌がトリオとして用いられている曲で、これもたいへん暖かい演奏でした。

 

これで今シーズンの定期演奏会も終わり、次からは新シーズン。セット券は確保済みなのでまた楽しませてもらおうと思います。

 

cali≠gari「cali≠gari 30th Caliversary”1993-2024″ 青春の抜け殻 @ 日比谷野外大音楽堂 2024/01/20」

久しぶりのカリガリ野音
真夏の野音ならぬ真冬の野音ということで…
何…?この漢字は…。

 

 

01.淫美まるでカオスな
02.マッキーナ
03.-踏-
04.ケセ
05.赤色矮星
06.隠されたもの
07.汚れた夜
08.狂う鐫る芥
09.冬の日 -うたごえ喫茶篇-(こたつ)
10.春の日
11.夏の日
12.一つのメルヘン
13.禁断の高鳴り
14.ハイカラ・殺伐・ハイソ・絶賛
15.燃えろよ燃えろ

 

En.1
16.銀河鉄道の夜
17.廃線された未来駅にて

 

En.2
18.グッド・バイ
19.青春狂騒曲
20.ブルーフィルム
21.エロトピア

 

雨や雪の予報が出ていたので戦々恐々としながら現地へ。
物販は種類が多いこともあってゆっくりの進みで、13時半ころに並んで15時半ころに会計。
冬の日シングルやBD、ステッカーなどを買いました。夏冬グッズが欲しくて…。

 

会場内はレインコートを着た人が多数。
2011年のときに配布されたポンチョを着ている猛者もいて、懐かしかったです。
ステージには15ツアーファイナルでも使われていた坂のような台が中央に設置され、左にドラム、右にパーカッション。
客席の中央部にはこたつが設置されていました。(13ツアーファイナルの時にはトイレがあった場所?)

 

最初のセクションはダンサブルな曲が連続したあと赤色矮星でびしっと締め。
今回のドラムはササブチヒロシ氏で、タイトかつ手数の多いドラムが印象的でした。
各メンバーの調子もよさそうで、それぞれの楽器の音がしっかり聞き取れたのも嬉しかったポイント。
青さんはかつてのバクチクを彷彿とさせるような髪型をしていましたね。

 

隠されたもの~狂う鐫る芥ではパーカッションを活かした細やかなアレンジが印象的。
ラテンパーカッションをメインに使いつつ、ティンパニなども豪華に使った味付けはとても贅沢でした。

 

こたつに移動してからの冬の日は、この日発売されたシングルのカップリング側のアレンジで。
アコースティックのギターとベースに加えカホン(ステージ上)という編成で、歌メロの譜割りを大胆に変更したアレンジはとても面白く聴けたと同時に、石井さんの歌唱力には目を見張りました。


その後、春の日が演奏されたときは「春を待とう」的なことなのかな?と思ったのですが、そのまま蝉の声がきこえてくると会場からもどよめきが。そして「夏の日」、「一つのメルヘン」に。
この野音では最後ということもあって、四季を網羅してみたというところでしょうか。心憎い演出です。

 

最前にいたお子さんが気になって仕方ない様子の石井さんと段取りを進めたい青さんのせめぎあい、村井さんの軽妙なトークを交えつつ本編最終セクションへ。ハイカラは久しぶりに聴いた気がします。声出し解禁後ということもあってコールが心地よかったですね。ギターソロ後半からのシーケンス的フレーズが続きながら歌が入ってくるところ、めちゃくちゃ好きなんですよね…。

 

アンコールでは16のツアーファイナルからの一幕を再現したようなセクション。
銀河鉄道廃線された未来駅にての流れは冷たい雨~続、冷たい雨のような完璧な流れだと思うので、またやってほしいですね。

 

村井さんの青さん発言捏造コーナーでひとしきり笑ったあとにツアー17が発表され、もう新作出すの?と吃驚した後は懐かしい曲のオンパレード。
メロディもしっかり決まったグッド・バイに始まり、青春狂騒曲、ブルーフィルムと続きましたが、ブルーフィルムでは歌の入りをミスして入り逃すという珍しい一幕も。そのままいくかと思ったら「もういっかい、やりなおそっか…」でやり直してしまうところもほかのバンドではなかなかない光景ではないでしょうか。個人的にはベースソロが2回見られたのでオトク感あり。

 

そこまででも大満足だったのに最後はエロトピアまで。間奏で半音ずつキーが上がっていくところではササブチ氏のドラムソロといった趣で、リズム遊びあり、手数ありの大変見ごたえのある演奏でした。

 

雨もたまにぱらぱら降る程度でとても快適に見ることができてよかったです。
建て替え後、どうなるのかはわかりませんが、またこの場所でライブを観たいですね。